映画 : マスター・アンド・コマンダー
ラクーアで一泊した後、向かった先は六本木ヒルズ。南北線なので麻布十番で下車し、久々に来たなあと周りをひとしきりきょろきょろした後、徒歩で映画館へ移動です。
目当てはもちろん、マスター・アンド・コマンダー。
さすがに公開から二週間も経った朝一だけあって、ど真ん中の席が開演10分前でも悠々取れたのであり、つまりそのすいません。結構がらがらでした。
大西洋波高し、時まさにナポレオンが大陸を席巻していた疾風怒涛の近世欧州。ちなみに日本では江戸時代の文化文政年間の初期。
フランスと死闘を繰り広げるイギリス海軍にあって、”幸運ジャック”と異名を取る不敗不屈の名艦長ジャック・オーブリー。フランス私略船アケロン号を撃破せよとの命令を受け、勇躍大西洋へ躍り出たHMSサプライズ号。
オーブリー艦長以下、乗組員197人は立ち向かう。暴風、凪、乗組員の不和、そして幽霊船の異名を取る神出鬼没の強敵アケロン号。はるか南太平洋へと続く壮絶な追撃戦の果てに彼等を待ち受ける運命や如何に。
いやもう、すっごい好き。すっごい好きだけど、これは確実に見る人を選ぶ映画だと思いました。
物語は最初から最後まで、ごく一部の例外を除いてサプライズ号の艦内で終始。他の映画であれば、時々はたとえばロンドンだとか、ナポレオンだとか、あるいはアケロン号の艦内とかのシーンだとかありそうなものですが、これはもう徹頭徹尾サプライズ号と、サプライズ号の乗組員が居る場所だけが舞台です。たぶん原作通りなんだろうなあ、と思っていたら、あとで調べたらピーター・ウィアー監督と言う人はこういう作風が得意と聞き、心の底から納得。
そんなわけでこの作品の主役はサプライズ号そのものです。
艦長から幹部乗組員、海尉から一介の水兵に至るまで、200人弱が暮らす我が家。何かの本の解説で読んだ受け売りですが、海洋冒険ものでの船とは、ふだん主人公達が暮らす快適な(あるいは快適にしようと努力している)家であり、乗り物であり、それがそのまま戦場にもなる、そんな珍しい存在です。
人でごったがえすサプライズ号の艦内は、映画として美化されているだろうにも関わらず、そこに人がぎゅうぎゅうに押し込められた雰囲気と言うか息苦しさというか匂いというか、そういうものを感じます。下層水兵たちの食堂と、幹部乗組員の詰める船内食堂の広さや雰囲気の違い。そういったものが戦闘時や訓練時には、壁一枚が取り払われて砲列が並ぶ戦場へと早代わりしてしまう。
やけに会食のシーンが多いような気がする今作なんですけど、この快適な我が家、日常を過ごす空間である船が、ひとたび戦闘となれば容赦無く粉砕される。冒頭でアケロン号の奇襲に遭い、滅多打ちの目に遭うサプライズ号、直後に総出で緊急修理してたりするんですが。
船が主役。と言っても、そこに人の存在を感じさせない神話めいた何かのような感じじゃありません。オーブリー艦長やスプリング副長を主とした、乗組員全体の共同体と言う魂と、砲門28門搭載のフリゲート級と言う肉体、それが結びついたサプライズ号が主人公であると言う、なんかそんな印象を受けるのです。はい。
…と、べた褒めしているんですが。原作のジャック・オーブリーシリーズこそ読んだことこそないものの、数年前に「ボライソー」シリーズを10巻ばかり読んだからこそ、こう思うんじゃないかと言う気はすごくします。
あるある、こういうシーン! とか、文章だとこうだけど実際はこうなのかー、とか、読んでいたからこそ感嘆するシーン(冒頭の「バイ・ザ・マーク!」でいきなり気持ち持っていかれました)が次から次へと。裏を返すと、暗黙の了解のような事項の説明は、たぶん興味のなかった人にはかなり不足気味だったんじゃないかと思うのです。「どうして? どうしてどうしてどうして?」を連発してるんじゃないかと。僕のま後ろに座ってた人は実際そうでした。トホ。
…映画のコピーだけ見た人は、「なんで子供が軍艦に乗ってるのか」が、作中で理由付けなり謎解きなりされるだろうと思ったんでしょうなやっぱり。ラストの終わり方も、僕は「おおー、おおー」ってな感じでしたけど、後ろの人は「…え? あれ? 終わりなの?」って感じでしたし。
パンフレットの文章も、熱が入っていて面白かったです。一般の人おいてけぼりな感じはしましたけど、映画はそれでいいのかも知れない。
映画が終わり外に出て、入れ替わりに並んでいたお客さん達の目当てはイノセンスでした。
これも早く見なきゃ。と思いつつ、売店に並んでいたグッズの一つに思わず爆笑。
(たぶん)作中に出てくるドッグフードと、おんなじ箱に入ったミルククッキー。これはドッグフードではありません、の注意書きつき。本当にドッグフードでもよかったような気もしますが、たぶん前代未聞ですな。
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