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2004.10.02

『中国迷路殺人事件』

 『中国迷路殺人事件』(イーエス・ブックス)

 残念ながら絶版中なんですが。オランダの外交官にして中国文学博士、R.F.フーリックによる中国歴史ものミステリの同シリーズ。入手困難なんですがすごくすごくお勧め。

 舞台は中国、七世紀頃。唐もまさに上り調子、三代皇帝高宗の時代。日本で一番有名な同時代人は玄奘三蔵でしょうか?
 のちに則天武后にも仕えた御史太夫となった宰相・秋仁傑、カタカナ読みでディー・レンチェ。彼がまだ官途に付いて日も浅い若い日々に、地方判事としてあちこちに赴任した先で、同時に巻き起こるいくつもの怪なる事件の物語であります。

 普通に読んでも色々の楽しみ方が出来て面白い小説であります。歴史ものでもあり、ミステリでもある。登場人物の気のきく台詞を追いかけていくだけでも相当に楽しめます。
 地方ごとのリアリティを感じさせてくれる唐の地方都市の風景の描写や、当時の裁判のやりとり(証人を拷問したりもしていて奇麗事では済まない感じ)等、歴史ものとして楽しませてくれる部分。
 いくつもの事件が互いに関連しあいながら進行していく様は、モジュール形式のミステリさながら。フロスト警部ほどまでごちゃごちゃとはしていませんが、それでも「なんだかやることがいっぱいあるなあ」と判事の副官達がぼやいているシーンなんかは、まるで警察もののような雰囲気にもなります。

 判事、と言うよりも、地方の長官である主人公ディー・レンチェは、裁判を行い犯罪を調査する他に、もちろん街の市政一般をつかさどる忙しい身。シリーズによって年齢は違いますが、本編では40歳前後の頃の話です。
 謹厳な政治家、更正で慈悲深い判事。但し謎があると身を入れてしまう一面あり。市を影から支配する悪党の話を聞きながらも、謎に満ちた絵巻物とそれにまつわる話に集中し、「長年仕えてるけど、あの人のことはよくわからないなあ」等と、部下に言われちゃったりもする。ちょっと趣味人っぽい雰囲気を備えた人物でもあります。

 そんな判事を補佐するのが四人の副官。そのうち二人は巨漢の豪傑、チャオ・タイとマー・ロン。関羽と張飛、助さんと格さんといった風情で、判事を守り、巡査を率いて実際の調査に当たるのがこの二人。陽性で三枚目、酒好き女好きのマー・ロンと、比較的謹厳でどこか陰のあるチャオ・タイと言う組み合わせ。
 この二人と付かず離れず行動するのが、三人目の助手タオ・ガン。「おいぼれのペテン師」とマー・ロンに言われる彼は、風車の弥七といった役どころ。正面からの喧嘩よりも、裏社会のしきたりに通じた身軽な知能犯で、いわゆる隠密の調査は彼の独壇場。
 最後の一人、ホン老警部は、長年ディー・レンチェに仕えた人物で、目だった行動は少ないものの、信頼できる爺といった役どころ。但しディー判事本人が無茶な行動を取るタイプではない上、ホン警部も温厚な人柄なので、あんまり口角泡飛ばすといった間柄ではないです。

 ディー判事と四人の副官の新しい認知は、帝国の西の果ての街、蘭坊。たどり着く前から山賊の襲撃を受け、街に着いてみれば知事府はもぬけの空、街の実験は暗黒街の顔役が握っている、と判明する始末。いきなり大ピンチのディー判事の前に次々舞い込む大事件。顔役にさらわれたと思われていた娘は行方知れずのまま。父は遠からず殺される、と判事に訴える青年、そして絵画を相続した婦人からは、その謎解きを依頼される。ウイグル族と国境を接した辺境の街で、判事と仲間達は悪戦苦闘するのだけれど。

 本の山が崩れた時、偶然発見して通して再読してしまいました。やっぱりおもしろいなあ。
 中国書籍の充実した本屋さんに行ったら見つかるやも知れません。是非。是非是非是非。

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