三葉虫はまるくなる。(☆☆)
無名の一兵卒だが、無駄死にはしなかった。-『三葉虫の謎』
もうすぐ一時閉架になると言う(そして新しく出来るでっかい公民館でオープンするらしい)くだんの図書館で、今度借りたのは三葉虫の謎。
たぶん化石と言って、恐竜の次にメジャーなのがこの三葉虫でしょう。なんか甲殻類の先祖か親類のフナムシみたいなので、いろいろな形態に進化していて、昔の海にはとにかくいっぱいいたらしい、と言うくらいのことは知っているものの、三葉虫とはどんなものなのか、と改めて考えてみると、案外知らない事が多いのに気付きます。大きさはどのくらいなのか。海のどのあたりに住んでいたのか。泳いでいたのか、歩いていたのか。どんなものを食べていたのか?
三葉虫の権威と言うか、もはや「三葉虫屋」といったほうがしっくりくるような著者フォーティ博士が、三葉虫の話と三葉虫にまつわる話をそれぞれに盛り込んで書いているのが、この実に面白い本です。途中までしかまだ読んでいませんが。三葉虫の生態と形態、そのびっくりするほど多様な生活層(なんとハオリムシのように熱水鉱床に住んでいる種までいたのだとか)、その『目』の秘密や、案外知らない色々なこと(危なくなると体を丸くして身を守った種もいたとか)。そして、『ワンダフル・ライフ』のグールド説に対する、ブリッグスとの共同研究に基づく異論。そういう専門的な話の合間に、というか、専門的な話を合間に、訳あって中古レコードの針を買いあさった話だとか、ノルウェー語が分からなくて愛想笑いをする羽目になった話だとか、古生物にまつわる真剣でおかしい話、そして不意に現れる、それだけ切り離しても十分重みを持つ言葉。
まだ三章の途中までしか読んでいないので何なんですが、フォーティ博士は三葉虫の脳の機能にはあまり注意を払っていないようにも見受けられます(「お粗末なものでしかなかったが、ともかく脳」と言う表現もありました)。しかし、三葉虫の目の構造の解説を見た時、それが昆虫の目の構造に似ていると思い、じゃあなんで昆虫の目の構造図なんか見たんだ、と言うところで、昆虫 驚異の微小脳で見たんだ、と。はたと気付いたわけです。
昆虫の目の構造と三葉虫の目の構造が似ているからと言って、昆虫の脳と三葉虫の脳が似ているとは限らないでしょうけれども。ただ、決して知ることの出来ない古生物の脳と言うものもまた、他の各器官がそうであるのと同じくらい。環境に最適化された、高度に進化したものだったのかも知れない、と言う気はします。
水中用ロボットが、優雅に多数のフィンを連携させ翻して泳いだのと同じように、遊泳型の三葉虫も遊泳用の足を、体節ごとに一対ずつある足を波打たせて泳いだに違いありません。昆虫の脳がわずか四枚の羽をハーモニックに動かして空を飛ぶ…… そして脳がそれを統御する…… のに劣らぬ事が、三葉虫の脳と言うシステムの中で動き回っていたのかも知れない、と思うと。ちょっと近場に化石ないかな見に行きたいな、と、そんな風に思ってしまう昨今でありました。
それにしてもこの本は、にゅーがわさんには是非読んで貰いたいと。ものすごい個人向けにまとめ。
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コメント
ほわ!? 興味津々で読んでたらご指名いただきました。
ワンダフルライフは図書館で借りた後自分で文庫版を買ったですよ。というわけで「三葉虫の謎」ですね、じゃあAmazonに飛んできます!
さきほどニュースを見ていたら、鳥に近いのにえらいでっかい恐竜の化石が新発見されたそうですよ。えへ。
でもあれです、化石で古代生物だと思うからわくわくするのであって、その、三葉虫とかワンダフルライフの顕微鏡模写図とか、冷静に見ると 虫 。こー、今の時期から夏にかけて鬱陶しくて気持ち悪いアレ。(笑)…琥珀色の浪漫、大好きです。
投稿: にゅーがわ | 2007.06.14 18:45
おおう、食いつきありがとうございます!?
気軽に読んでいただきたいとか書いてからamazonさんの価格を改めて見てちょっとぎょっとしてしまいました。おおお、お近くの図書館とかにうっかり入ってないかな、あたりから是非是非。
古生物はやっぱりこう、「いないからいい」って言う部分は抜きがたく重要ですよね(苦笑)。
さすがの僕も、スーパーで三葉虫のパックが売ってたり(しかも小さいのがぎっしり)家に帰ったらまな板の上に三葉虫が体節ごとに断ち切られているところだったり、新鮮な三葉虫の足の肉をお酢で頂くのが地元の季節の味とかテレビでやってたりしたら、多分げんなりします。しますとも。
「クロノアイズ」って漫画で、タイムトラベラーがアノカロカリスを食べようとして時空犯罪を犯すって言う話がありましたが、そもそもあれを見て食べようと思う時点で性根が据わっているとしか(笑)。
関係ないですが、このあいだ風波さんと新宿をうろうろしていたら、三越かどこかでアンモナイトとかベレムナイトが階段の石に埋まってるのを見て、ちょっと感動しましたよ。
ああ、この人(じゃないけど)も、何億年も経ってから繁華街のど真ん中でじろじろ見られる羽目になるとは、生きてるうちは夢にも思っていなかっただろうなあ。とか。
投稿: sn@散財 | 2007.06.14 21:15