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2008.06.18

ハヤカワミステリにR.V.ヒューリックの作品が。(☆)

 時は大唐、ところは中国。太宗・李世民より時代は下り、のちに武則天がその名を天下に轟かし、やがては名高い玄宗皇帝、開元の治と称えられる時代に至る、その少し前のこと。任地となる地方の土地土地で、難事件を次々と解決していく名知事がおりました。これなるはのちの、名宰相・秋仁傑(ディー・レンチェ)の若き日の姿でございます。
 手足と働く四人の副官は、長年の付き人である温厚なホン警部を皮切りに、ディー判事の関羽と張飛たる緑林の兄弟、生真面目な元軍人のチャオ・タイと、闊達な山賊上がりのマー・ロン。そして裏の世界に通じた食わせ物、変装の名手タオ・ガン。個性豊かな助手達の助けを借りて、歴史に、記憶に、人の心に埋もれたわずかな手がかりを繋ぎ合わせて、判事は次々と不可解な事件を解き明かしていく。街に、そして判事と仲間達に襲い来る危機また危機、名判事ディーの運命やいかに!
 
 と言う感じの、碩学ロバート・ファン・ヒューリック(昔はフーリックと言う表記だったんですが、遺族の希望でヒューリックと改められたのだそうです)の手になる中世中国風探偵小説シリーズ。あちこちの出版社から初期長編はまとめて出版されていたのですが、近年ハヤカワミステリにて、シリーズ後期の作品も新訳にて訳出されているようです。これは嬉しい、素直にうわーい。たまたま浦和の図書館で借りてこられたので、水滸伝の続きと一緒にしこたま借りて来ちゃいました。

 初期の長編は一種のモジュール型小説の様相を呈していて、三つほどの事件が同時進行で展開し、ディー判事と四人の助手が、それぞれ手分けして事件に対処し、それぞれを解決していきます。翻って後期のシリーズは、判事とだいたいは助手ひとりかふたりに登場人物が絞られ(判事が旅行中とか、あるいは助手のほうが別の用件で不在とかで)、少ない人数で事件解決に望むところに特色があります。

 ともあれ、オランダで東洋学博士号を取り、中国と日本への滞在も長いヒューリック。文章どころか文体も中国の伝統的な探偵小説の体裁に乗っ取り、挿絵まで自分で描いちゃう入れ込みっぷり。ディレッタント、って言っちゃったら失礼にあたりそうですが、この偉大な遊び心の持ち主の産物がまだまだ読めるって言うのは心の底から嬉しい事です。

 まだまだ未読の作品は多く、長く楽しめそう。ほそぼそと楽しみたいと思いますー。

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