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2008.08.10

闇の騎士:善は弱きがゆえに悪に抗えず(☆☆☆☆)

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 ダークナイトを見てきました!

 フランク・ミラーのマインドを取り込んで混迷したバットマンムービーを見事に仕切り直し、中興の祖と称えられるべきバットマン・ビギンズから幾星霜。幕切れに銀幕に現れた一枚のカードは壮大な予告編となり。故ヒース・レジャーと言うよりしろを得て、ジョーカーは戻ってきたのです。バットマンと共に。

 道化師のマスクをかぶった男達は銀行を襲った。善人はどこに? 銀行はマフィアがマネーロンダリングを行っている銀行だった。麻薬の売人は強すぎる薬を売ったと取引相手に難癖をつけた。バットマンの扮装をした何人もの男が現れる。善人はどこに? ウェイン産業と取引を行おうとした会社のもうひとつの顔。それを見つけるよう指摘した、フォックス社長に対し弁護士が探り当てた、ウェイン社の「不正支出」の事実。そして彼はそれを使って、何をしようとしたのか? 善人はどこに?

 道化師のメイクをした男は笑いながら闊歩する、撃ち、刺し、脅し、笑い、気が向いた相手に気が向いた理由で傷の由来を告げながら。何者なのか解らないその男の名がジョーカー。かつてはチンピラかこそ泥か。しかし、大きなものと戦う限り大きなものになれる、そのシンプルな理屈は彼を無双の破壊者に引き上げた。紫色の上物のスーツで現れて、全資産の半分と引き替えにバットマン抹殺を持ちかけた男は、マフィアを、警察を、バットマンをそして街の人々を、狂気と喧伝と理解を拒んだ暴力で大混乱に陥れていく。
 混沌をもたらす道化師ジョーカーと戦うのは、バットマン、そしてジム・ゴードン警部。街の秩序を回復させようという戦列に、地方検事ハーベイ・デントがその力を加える。弁舌と法律の力を駆使し、人々を秩序と行動に駆り立てて、真剣ならばこそ、対立と小競り合いを繰り返しながらも協力し苦闘を続けるデントとゴードン。ブルースは、時にバットマンとなり、時にブルース・ウェインとなり、傷を負い何かを失いながらも戦い続けていく。
 二転三転する状況はそのたびごとに不安定さを増し、不安と恐怖を両輪にして個人と街の両方を巻き込んでいく。思いもかけない事態は収束するかと思うたびに拡大を繰り返しそして。しかしでも、勝ったのは、本当に勝つのは、勝ったのは誰だったのか?

 ……というわけで、冒頭の銀行強盗のシーンから箸休め一切抜き、ここでこうきてここで畳むかな、と思ったら、畳みかけたと思った瞬間にもっと広がった! ウワー!? と言う衝撃が立て続けに続くクラッシュな映画でした。この映画を語るとしたら、申し訳ないですがヒース・レジャーとアーロン・エッカートになにもかも集約してしまうでしょう。
 恐ろしいほど真剣なのに完全にふざけている、エネルギッシュでありながら空虚さの漂う。そして無礼で小気味悪いままで、どこか泣きそうになるほどに心の裏口に語りかけてくる、レジャーのジョーカー。
 古く折り目正しい美男子、つねに正しく理想的であり、ありつづけてしまうアーロンのハーベイ・デント。原作でアポロと言うあだ名のあった(ちょっと古くさいっぽい)美男子としてぴったりの役柄です。この二人にあまりに食われて、さすがのクリスチャン・ベールも押され気味な雰囲気をちょっと感じてしまうのですが、それでもマイケル・ケインのアルフレッドに支えられてバランスがとれているさまは、さすがと唸ってしまうのです。

 長々と書いても語り尽くせそうにありませんが、ジョーカーは、ジョーカーだけは見ていってほしいと思います。いろいろバットマンの小説とかコミックとか映画とか見ましたけど、これは、これが僕のジョーカーだ。ええと待って変な誤解しないでほしいんですけど、ええと、これはかなりにおいて、僕の中のジョーカーだ、と言う感じです。

 この映画を見て、心の中のジョーカーに気がつく人がいるかも知れません。それを飼い慣らす方法を教えてくれている気はしないですが、認識は克服へと続く道だと言う気もするのです。
 見た人なら解ると思いますけれども。最後のほうの、あの選択が僕に出来るかどうか? それを問いかけたままにした映画でもある、そんな気もする昨今です。

 ああ、それにしても、あれはなんてジョーカーなんでしょうね。もう見られないんだよなあ……。

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コメント

俺も今日、観てきましたよ!
snさん、あらすじまとめるのうまいなー。

ヒース・レジャーとアーロン・エッカート…最高でしたね…。
そして、まず脚本の勝利だと思います。

すごいなと思ったのは、ジョーカーの内面を「説明」してないんですよ、一切。
全く理解できない怖さ。
もっと『キリング・ジョーク』的な描き方かと思ってたんですが、違いましたね。
怨恨でも、信仰でも、金でもない。
ひたすら理不尽で不条理な暴力の権化として描かれるジョーカー。
このジョーカーがかつてのジョーカーと決定的に違うのは、根本的に劇場型愉快犯じゃなくてテロリストなんですよね。
笑ってるのはメイクで、目は常に座っている。
(観終わった印象として、ジョーカーが笑ってる印象ほとんどないんですよね。)
911以降のアメリカだから生まれた新しいジョーカー。

逆に理解できてしまうからハーベイ・デントは悲しい。

救いの無いディスコミニュケーションの連鎖の中で唯一の救いを与えてくれるのが、バットマンではなく、ゴッサム市民の選択だったというのも、実に…。
脚本の勝利だと思います。

実は「ビギンズ」については、割と不満もあったんですが(あれはやっぱり『イヤー・ワン』(つまりゴードン視点)にするべきだったと思うんです)今回は文句なしです。
やり切りすぎて、続編がちょっと思いつかないくらい。

投稿: キャプテン | 2008.08.10 22:56

 おおおお、いいですよねあれは濃いですよね。時間的に短いとは言いませんけど、「水増し」したようなところが感じられない恐ろしい濃度でありました。
 濃さを希釈するなら、世間並には前後編とか三部作とかやってもよさそうな位ですよね全く。……それだけに、これだけハードルあげちゃって続編作れるの? って気になりますけども(汗。……まあ、たぶん、でも、半年くらいは「バットマンの映画はこれで打ち止めでも、それはそれでいいか」って気分になりますね。はい。

 ジョーカー、日記の本文ではああまとめてみようとしましたけど、説明しようとするといろんなものがこぼれ落ちちゃいますよね。説明してなかったし、説明できない。
 溢れ出てくるのが、過剰なまでの真剣さと、にも関わらず漂う空虚さ。時折出てくる、いかにもジョーカーっぽいコミカルなシーン(爆破スイッチ接触不良でかちかちかち、とか)を見ていると、「ジョーカーが、ジョーカーを演じている」みたいな、奇妙な感覚を覚えます。古くさい表現ですが、乗り移ったような、と言う感じですねー……。
 
 ニコルソンのジョーカーもアニメ版のジョーカーも、そしてレジャーのジョーカーも。並べてみると全然別のキャラのような気がするんですが、どれもジョーカーなんですよね……。これも不思議な話な気がします。

 デントはつらいですよね。だって間違っていないんですから。いろいろ書きたいけど公開終わるまでは我慢しないとマズいですよねぐぬー(笑)。見に行って下さい皆さん、ということで(笑)。

 ビギンズがもうちょいイヤーワン寄りでも、と言うのは僕も賛成であります。ゲイリー・オールドマン連れてきたところを見ると、最初はもっとそういう話だったんでしょうねきっと。
 ……と言いつつ、イヤーワンを読んでおくと、ダークナイトへの肩入れ具合もいっそう変わってくるんじゃないかと思ってきた自分です。

 ところで、何が失敗したって、先にハルク見てからダークナイト見ようと思ってたのに、うっかり順番逆にしちゃったんですよね……。つまりハルク未見なわけで。
 いやハルクも良作じゃないかと思うんです。楽しみなんです。全然別物なのは解っちゃいるんですけど…… 先にダークナイト見ちゃったなあ、と言うのが、ちょっと悩ましい昨今ですね(苦笑)。

 ともあれ、早くBD出てほしいですねー。
 劇場アンケートでBDとDVDの発売について値段つきで意見募集してたので、その日はきっと近いですよ。うむ。

投稿: sn@散財 | 2008.08.12 10:30

遅ればせながら見て来ました。

いや、ヒース・レジャー蘇らせて往復ビンタしてから
ノーラン監督のところに「迷惑かけてすいませんでした」って
謝らせにいきたいと思いましたわ。
テリー・ギリアムはトラブルには慣れてるだろうからいいとしてw

もう「あの」ジョーカーが見られないってのは
映画界におけるとんでもないレベルの損失だと思います。

投稿: りょーいち | 2008.08.21 23:01

 「ブラザーズ・グリム」も好きでしたよ、ってそっちの話じゃないですかね(笑)。

 映画を見てから色々な評を読むにつき、思いつく事も色々あって。次は仮説を持って、もう一回見に行こうかな、とか思っております。
 あのジョーカーは多分、僕とかみんなが思ってるよりももっと複雑な存在であろうなあ、と言う感じで。

投稿: sn@散財 | 2008.08.22 22:30

ギリアムのは撮影中に遺作になった
「パルナッサス博士の想像力」のほうです。
ジョニデとかが代役務めるやつ。

DKは見るたびにどんどん深まっていく映画のような気がします。
「ウオンテッド」「アイアンマン」までにもう一度見ておこうかなぁ。

投稿: りょーいち | 2008.08.22 23:29

 なるほど、チェックしてませんでした。あっちもギリアムだったんですね>パルナッサス博士

 新しいものかどうか判りませんが、アイアンマンの見たこと無い映像今日見てきました。新聞記者に軽薄な受け答えをする、トニーが実にイヤな奴で素敵でした(笑)。

投稿: sn@散財 | 2008.08.24 20:04

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