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2009.01.30

【ゲーム】犬神家の一族(☆☆☆)

 というわけで、ゲーム版「犬神家の一族」の紹介です。

 よれよれのセルにお釜帽と言う風体の上がらないスタイルで、つとに親しまれまたその名を知られてきた名探偵。言わずと知れた金田一耕助です。横溝正史の創作したこの名探偵の物語は数あまた、その世界は原作に留まらず、映画、ドラマ、またコミックと、これまでにも多くのジャンルに発展してきました。若年の人は、「金田一少年の事件簿」からその名を知って、横溝正史の方へと進んだ(または進まなかった)人も多いかも知れませんね。
 「八つ墓村」「獄門島」「悪魔の手鞠歌」「悪霊島」「病院坂の首くくりの家」…… 名作あまたある中でも、もっとも有名な作品の一つが、「犬神家の一族」です。

 市川崑監督と役所広司石坂浩二のコンビで二度映画化されたこの作品。詳しい筋や金田一ものである事は知らなくても、「白い覆面をかぶり着物を着た不気味な男」「水面から足だけが突きだした異様な死体」などのキービジュアルはどこかで見た人も多いかも知れません。「ああ、あの!」と言われそうなこの「犬神家の一族」、なんと今度はニンテンドーDSでゲームとして登場して参りました。
 それにしても、横溝正史作品がゲームになった、と言う話は、あまり今まで聞いた事がありません。ひょっとすると初なのかも。

 犬神佐兵衛は立志伝中のひとである、と言う原作の出だしのように、このDS版も犬神佐兵衛の臨終のシーンから始まります。時は昭和2x年(原作版。ゲーム版では昭和24年と言う設定)、終戦の傷痕も癒えぬ頃。犬神財閥の支配者である犬神佐兵衛は、那須の犬神家で臨終の床にあった。枕頭に集まったのは、松子・竹子・梅子の三人の娘をはじめとする犬神家の一族たち。しかし彼等は末期の際にある犬神佐兵衛の遺産にただ執着し、遺言は、遺言は、としつこく詰め寄るばかり。
 犬神家の弁護士である古館氏は、そこで初めて遺言状の存在を明らかにする。しかしその内容は、佐兵衛の死後、最後の孫である犬神佐清が戦地から帰還するまで、公開される事は無いと言う。唖然とする一同を尻目に、息を引き取る佐兵衛。
 そして、数ヶ月後。いよいよ佐清が復員し、遺言状の内容の公開が近づいたある日、那須駅を降り立った人こそ金田一耕助その人だった。古館弁護士の助手・若林から、犬神家に緊急の危機が迫っている事、その解決を依頼され、はるばる那須へとやってきた金田一。しかし若林はその金田一に会う事もなく殺害されてしまう。そして明らかになった遺言状の内容を巡り、犬神家の一族は血を血で洗う暗闘を繰り広げる事になる……。

 と言う筋立ては、もちろんゲームも原作と一緒です。というか、過剰なまでに一緒です。
 そも、本格推理とかアドベンチャーゲームとか聞くと、たいていは「いどう」とか「はなす」とかコマンドがある、と言う世界を想像しそうなものですが、すでにそこからしてこのゲームは違います。ほとんどの場合、話はほぼ自動で(原作通りに)流れていき、金田一がどこに行って誰と話をするのかは、プレイヤーではなく金田一自身が決定し、そして行動します。いくら「この時間帯にここに行けば犯行を阻止できるはず」と考えても、そういう行動を取る事は、ほぼ、できないのです。そういう意味では、アドベンチャーゲームと言うよりも「金田一耕助シミュレータ」と言ったほうが近いかも知れません。原作での金田一耕助の行動を、基本的になぞって行動するのを見ている事になるのです。

 それでは、ゲームとしての要素はどのへんにあるのでしょうか? それを統御しているのが、「重要語」と言うシステムです。金田一といろいろな人との会話の中で、特に重要な単語は赤く表示され(言うのを忘れていましたが、このゲームの表示は基本的に全てモノクロで、他は赤だけです)、「重要語」に登録されます。
 この「重要語」、言うなればアドベンチャーゲームでフラグが立った時に「はなす」の内容が増えるようなもの。普通に人と話をしているときに、話に割り込んで、この「重要語」について問い合わせる事で、会話の流れをコントロールし、情報を(さらなる重要語を)引き出す事が出来ます。また、重要な話の時には「質問モード」になり、この重要語をつぎつぎと投げかける事で話を聞き出す事になります。「逆転裁判」をやったことのある人には、「つきつける」とサイコ・ロックと言えば、通じがいいかも知れませんね。
 また、場合によってはこの重要語を使う事が、金田一の行動を結果的に制御する事になるケースもあります。冒頭で、ホテルの窓から湖を見ていた金田一は、湖面で沈んでいくボートを目撃します。この時点で自問自答した金田一は、二つの重要語を並べます。「助ける!」と、「ボートを!」。
 このうち、「助ける!」を選ぶと、原作通りの展開になります。とにかく飛び出した金田一は湖面で野々村珠世を救出し、猿蔵から事件について聞く事になる。しかし部屋をあけた僅かな隙に、金田一を訪れた依頼者の若林は何者かに殺害されてしまいます。
 では、「ボートを!」を選んだらどうなるでしょう? 自分が言っても足手まといになる、と冷静になった金田一は、その場に居た慣れた人にボートを出して貰うよう依頼します。救助される様子を見て安堵する金田一、その彼の元に若林が訪れて…… と、原作とは異なる展開になっていくわけです。
 このあと、若林との話の中で、使わなかった「助ける!」を投げかけると、また会話の流れが変わっていったりと、面白い事になっていきます。

 いいことづくめに思える重要語ですが、これには一つ重要なポイントがあります。それは重要語は、一回使うとなくなってしまう、と言う事。場合によっては、相手が鸚鵡返しに同じ言葉を返してきて、重要語を再度回収できる場合もありますが、基本的には一回使うとなくなってしまうものです。……そのため、「あとで必要になりそうな重要語は使わない」と言う選択肢も重要になってきます。また悩ましい事には、一回も使わない重要語も中には混じっていたりするのです。

 ここからは、ちょっとシステム的な難点になってしまうのですが。このように、一回使うとなくなってしまう重要語、「どこで、誰に、どのように」使うのか、その使いどころが重要になってきます。ところが、このシステムですと、金田一はどこで誰にいつ話を聞くのか、そこのところを制御する事はできません。原作のあらすじを押さえておけば、大体、次はこの人に話をして、この話をするはずだから、この重要語は残しておこう、と言う目処が立つのですが、総当たり的に重要語を投げ込んでいくと(やってないのでなんとも言えませんが)恐らく猛烈な勢いで手詰まりになってしまうはず。
 一応、重要語を使うべきタイミングに関しては、下画面に耐えず流れている心電図の乱れと、推理モードで(フケを飛ばしながら)頭をかきむしれば教えてくれることにはなっていますが。なかなか悩ましいと言うか、難しいところだと思います。
 もう一つ悩ましいのは、重要語を使っても使わなくても結局同じ情報が手に入って、なおかつ(重要語があってもなくても、普通に会話が続くシーンがそこそこあるので)会話の前後のつながりがおかしくなってしまうところでしょうね。
 本編中でちょっとした意外な事実が明らかになるシーンがあり、そのタイミングは重要語を使った時と使わなかった時と二度ある(重要語を使った時は二回、使わなければ一回聞く事になる)んですが。二回とも金田一達が「初めて聞いた!」的なリアクションをするのが、ちょっとどうかなあ、と思った次第で……。

 ともあれ、慣れてくれば、相手の言おうとしていることを先回りして指摘するなど、名探偵気分を満喫する事もできるので、エア名探偵システムとしてはよくできていると思います。もうちょっと洗練されると、嬉しいなあ、と言うところですね。
 この重要語に失敗すると、バッドエンドになる展開が待っているわけですが、バッドエンドがバッドとも言い切れないのが、金田一ものの面白いところかも知れません。なにせバットエンドのほうが、きちんとしたエンディングよりも犠牲者の数が少なくて済む事もあるわけで…… さすが、日本一守備率の悪い名探偵の面目躍如、と言うところでしょうか……。

 システム的な話でながながとなってしまいましたが。この作品、とにかく雰囲気と再現度と言う点では頭ひとつ抜けています。作中で手に入る新聞(この新聞に書いてある事件のおかげで、作中の時間軸が昭和24年と判る)の、広告までうまく作り込んでいる作り込み具合とか、クロスワードパヅルや虫食ひ算といったミニゲームなどなど。わかりにくいタームや「昭和24年」と言う時代の雰囲気を説明するのに、かなり重要な役割を果たしていると思います。
 つい気に入っちゃってCDまで買っちゃった陰陽座さんのテーマ曲や、モノクロで統一し、赤の効果を飛躍的にした重厚でおどろおどろしいビジュアルなど(あと時々、そこからどうしようもなく生じる紙芝居チックなおかしさ)など、雰囲気は十二分をはるかに超えて、素晴らしいものがあります。
 どうしようもなくはみ出ちゃってる原作愛を物語りそうなエピソードを一つだけ。犬神家の一族で、もっとも有名なシーンと言っていい「下半身だけが突き出された死体」ですが、今まで、ほとんどの映像化作品では、なぜその死体がそういう姿でなくてはならないのか、その説明がなされていませんでした。しかし今作ではその辺りの説明がばっちり為されています。と言うより、金田一耕助になりかわり、為さなくてはいけないのです。ここのところは笑い出したいくらい感心しました。ああ、原作を読んでなければここは絶対に判らないぜ、みたいな。そういうノリでありました……。満足。

 ……そうそう、ついでに。これはゲーム的な問題ではないのですが、「復員」とか「輪タク」とかの単語が、説明なく飛び出してくるのが、わかる人には大丈夫でも、わからない人にはわからないかも知れず。そのへんが不安でもありました。

 ともあれ、まだこなれていない部分は多々あると感じましたが、明らかに野心作であると思いました、この作品。
 次回作の八つ墓村では、この重要語周りのもやもやが解決しているといいなあ、と思う次第です。作中でもそういえば、八つ墓村への言及がある(八つ墓村の事件は昭和23年なので、犬神家の一族の1年前に起きている事になっている。らしいです)のもニヤリポイントでした。
 原作自体がほぼ金田一耕助の視点で展開する犬神家の一族と違い、八つ墓村は寺田辰弥の視点で描かれていて、実は金田一耕助は(重要な)脇役です。金田一視点で描かれた八つ墓村だとしたら、それはそれですごく見たい。
 なんにせよ、次回作に期待したい。そんな野心作な、この一作でありました。

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コメント

ちょっと興味があって、内容を読もうと思いましたが、ゲームってやったことないので、他のゲームに喩えてるところが全く分かりませんでした。。半分未満で挫折してしまいました。。

投稿: ヨッコ | 2009.02.02 15:44

 いやー、まあ。ゲームについて知らない人に説明するのはなかなか大変ですから、それはそれで……。
 自分としては「興味のない人に理解して貰える文章」って言うのはテーマなんですが、なんだ。精進します、はい(汗。

 しかしてこの場合、原作を読むと吉と出ています>犬神家。
 自分も図書館で借りてきて読み返してますが、ゲームと記憶と実際の本とでディティールに食い違いがあってなかなか驚きます。記憶ってのはわがままなものですなあ……。

投稿: sn | 2009.02.03 21:26

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