へうげもの(☆☆☆)
ウォッチメンの返歌にと烏羽さんから借りた「へうげもの」。
熱が下がらないつれづれに、借りた分すべてようやく読破しました。
これは面白い! すごく目新しい! と言うのが第一印象。や、普段なんていうか、人が思うほど漫画とか読んでないもので、世の中の漫画はたいていこんなふうに面白いのかも知れませんが、それにしたってこう。誰でも知っているつもりの時代を、全く新しい方向から切り出してしまっているあたりがたまりません。
主人公である古田織部を始め、出てくる人物はみな魅力的。泥臭く欲求に突き動かされて、思い悩んでもそれが決して観念に堕しない。頭だけで悩んでいないと言う感じなのです。
美術史と言う観点から戦国の一番濃いところをぶつけてきた意欲さ加減に加えて、数寄を取るか武を取るか、を常に己に問い続ける(わりにはストイックなイメージがあんまりないのが素敵なところなんですが)、古田織部のキャラクターを、社会人としての立場、趣味人としての立場の折り合いをつける現代人の立場に相通じるものがあります。て言うか、古田織部のあんまりなくらいのマニアっぷりが、あまりにも素敵過ぎて目に余ると言うところですね(笑)。第一話のサブタイトルがすでに「君は物のために死ねるか」ですから。素敵過ぎる。
日本仏教史は昔から通して勉強したいと思っているテーマでもあります。それは茶道の歴史にも分かちがたくつながっていることでしょう。勉強したい事は多いものです。ううん。
【付記】
書いてアップしてから思いついたと言うか思いだしたんですが、この作品のすごい見所って、登場人物の表情と、心理戦と言うか腹の探り合いだと思います。
しょっぱなのあたりの、古田織部が利休の弟子になるくだりがいきなりかなりの白眉だと思う次第でありますよ。
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コメント
「へうげもの」、連載でちろちろ読んでたんですが、実家に帰ったら全巻揃っててびっくりしました。
ちなみに実家は茶道を教えていたりして、その関係で興味を持ったようです。
投稿: キャプテン | 2009.04.13 00:59
なんと!>実家で茶道を~ それは確かに興味持たれるでしょうねー。その道の人が読まれてどういう感想を持たれるか、またそれも興味深い気がします。
ずいぶん前に無くなったうちの祖母も、以前にお茶を習ってたそうで(そうでって言うのも適当な話ですが)。建替のときにお茶道具の類がころころ出てきてびっくりしましたヨ。
結局お茶の仲間だった方に引き取って貰ったような次第でありました。価値のあるものがあったようには思えませんでしたが(笑)。
投稿: sn | 2009.04.13 23:55
やあ、たいそう気に入っていただけた様で何よりです。
> 世の中の漫画はたいていこんなふうに面白いのかも知れませんが、
>
私はマンガは結構読んでいるほうだと思いますし、所持しているほうだと思いますが、WATCHMENのカウンターに当てるものを選定するのにはかなり苦労した、というところから読み取っていただけると幸いです(笑)
> 主人公である古田織部を始め、出てくる人物はみな魅力的。泥臭く欲求に突き動かされて、思い悩んでもそれが決して観念に堕しない。頭だけで悩んでいないと言う感じなのです。
>
数寄をまったく解さない人物として描かれる秀吉、家康でさえ、彼らなりの欲求や美意識に突き動かされて行動していますからね。誰も彼もパワーが漏れすぎです。
> わりにはストイックなイメージがあんまりない
>
古田織部のいいところはあの胡散臭さというか俗物くささだと思います。
> この作品のすごい見所って、登場人物の表情と、心理戦と言うか腹の探り合いだと思います。
>
山田芳裕のやり過ぎなまでに誇張の効いた絵面が上手くはまっていますよね。この人、昔からこんな感じです。
心理戦に関しては、殆どの場合、受け取った側の解釈しか描かれないのが面白いですね。本当のところどうなのかは自分で考えろというか、実際の行動・言動を見よというか。
投稿: 烏羽 | 2009.04.28 00:48
いえいえ、おかげさまでいいものを読ませていただきました。感謝しておりますよー。
アメコミは手持ちの邦訳ネタだけでも、キングダム・カムとかアストロシティとか、まだまだおすすめしたいものがありますゆえ。
美意識と戦国って、ある意味では全く相通じないと言うか、正反対にあるべきもののような気がするんですよね。泥と美というか。それがなぜか、歴史上共存して、相呼応して高みを目指した。不思議なこういうテーマに挑んでくれるって意味で、漫画は面白いと思います。マンガじゃなくしてね。
あの表情とか、心理描写を顔で表す辺りを見ていると、なるほどこういうのが漫画に最適化された表現だって言う気がします。
それにしても信長はかっこよかったですよ。いかしすぎます。
投稿: sn | 2009.05.07 21:05