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2009.06.23

【創作】空きっ腹の作家(★★☆)

 公平に言って、賢いとは言いかねる男がいました。
 男は物語を書くのが大好きでした。

 歩いている人が食べているパンを見て、とても羨ましくなった男は、パンの物語を書けばパンを食べた気になれると思い、パンを称える物語を書き上げました。
 それを見ていた人々は、「またあの男はかしこくないことをしている、パンの歌を歌ったところで、おなかがいっぱいになるわけでもないのに」と、男を笑いました。

 歩いている人が着ている服を見て、とても羨ましくなった男は、服の物語を書けば服を着た気になれると思い、服を称える物語を書き上げました。
 それを見ていた人々は、「またあの男はかしこくないことをしている。服の歌を歌ったところで、来ているボロが立派になるわけでもないのに」と、男を笑いました。

 道を行く恋人達が幸せそうにしているのを見て、とても羨ましくなった男は、愛の物語を書けば愛し合った気になれると思い、愛を称える物語を書き上げました。

 人々は男の書いた物語を読み、喜び、かしこくないと思っていた男の、思いもかけない才能を称えましたが、男はどうしても納得がいかず、ずっと首をかしげていました。

 最初に書いたパンの物語のほうが、ずっと出来がいいし、気に入っていたのに、と。
 空きっ腹を抱えて、男はずっと首を傾げていました。

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