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2009.09.05

【読書】X-MEN ウルヴァリン:オリジン(☆☆☆)

リンク: Amazon.co.jp: X-MEN ウルヴァリン:オリジン (SHO-PRO BOOKS): ポール・ジェンキンス, 光岡三ツ子: 本.

 「ゼロ・トレランス」と言うX-MENのストーリーラインに、こんなエピソードがあった。
 X-MENサイドの戦士であるミュータントの少女・ジュビリーが、その時の敵であるOZTに拉致され、収監された時の事。敵は彼女を屈服させるべく、さまざまなビジョンを見せてジュビリーの闘志を砕こうとする。
 自分の見ているものが現実か幻覚かも解らないジュビリーは、あるときウルヴァリンが同じように囚われ、拷問されているビジョンを見せられる。以前にX-MENが離散状態にあったとき、ジュビリーはウルヴァリンの押しかけ相棒として、二人で活躍していた時期があったのだ。

 この映像はジュビリーには相当こたえたが、拷問を受けているウルヴァリンが、最後に一言ぽそりと「やめてくれ」と呟いたのを耳にして、ジュビリーは一瞬にしてこれは幻覚だ、ウルヴァリンは囚われていない、と見破り、闘志を取り戻す。ウルヴァリンが絶対に諦める筈がない。まさしくジュビリーの確信通り、それは幻でしかなかったのだ。

 ウルヴァリン、彼はいさましいチビの自称おいぼれカナダ人。絶対に折れず曲がらない超金属アダマンチウムの骨格と骨を持ち、ハルクだろうがサノスだろうが、どんな相手を敵に回しても、気難しい顔で突っ込み切り裂きにかかる不屈の戦士です。
 とことんタフでやりくちは粗暴ではあるけれど、心までも野獣であるかと言うととんでもない。御し難い程の誇り高さと、敵を殺害す事とを厭わない冷徹な一面も確かに持つ持つ一方、言葉にはしないものの思索深く、仲間や弱者、他人への思いやりをも持ち合わせ、時折、それとなく不器用に(あるいは意外に器用に)覗かせたりもする、複雑で、どこか繊細な一面を持ち合わせています。

 その源流にあるものが、彼の正体の不確かさなのでしょう。ウルヴァリンの過去について本人自身解っている事と言えば、名前がローガンであることと、カナダ人であることと、かつて政府のウェポンX計画に参加して、その時以前の記憶がかなり曖昧になっていることくらい。そのウェポンX計画で操作され錯綜した彼の記憶は、世界一のテレパシーであるプロフェッサーXですら、真相を探り当てかねるほどに混乱してしまっている。そしてどうも彼は、数十年も前から、今のままの姿で戦い続けてきたらしいのです。
 己は一体何者なのか? ウルヴァリンの戦いは、綺麗事でも哲学でもなく、文字通りの意味で自分自身を追い求める、終わり無き求道の旅でもあります。時に敵に、時に味方に、おのれの過去につながる情報を追い求め続けて。ウルヴァリンがしばしばサムライに準えられて(ストッキング被って俺は忍者だって言いきった事もあったらしい)、彼の行動にどこかストイックな面影があるのは、この特殊な要因のせいなのかも知れません。

 馴染みのある、そして長年生き残ってきたヒーローには、必ずよく知られた出自というものがあります。あるいは、放射能によって変異したクモに噛まれたスパイダーマン。ガンマ爆弾の爆発の影響で変身したハルク。宇宙の彼方から、クリプトン星人の生き残りとして地球に飛来したスーパーマン。幼い日に両親を強盗に殺害され、復讐を誓ったバットマン……。映画やリニューアルシリーズなどで、その誕生秘話が語られ直す事はありますが、大筋で「よく知られたアウトライン」から外れる事は、まずありません(もしそうなったら、それは同名の別のヒーローと言うべきでしょう)。
 ところが、ウルヴァリンに関しては、それがありません。彼には誕生秘話などは特になく、突然、ほとんど今のままのウルヴァリンとして、コミックに姿を現しました。今でこそ映画の主役を張れるほどのビッグネームになったウルヴァリンですが、初登場の時はただのゲストキャラであり、レギュラーになった時も、リニューアルされたX-MENチームの一員、と言うくらいの扱いでしかなかったのです(ちなみにこの時の言わば同期が、ストーム、ナイトクローラー、コロッサスなどなど、映画にも出てきたおなじみのメンバー達。日本人ミュータントのサンファイアと言う人も居ました)。
 いつのころからかそうなったのか解りませんが、詳しい設定が無いキャラクター、と言うところをうまく逆手に取ることに成功し、ウルヴァリンには「失われた自分の過去を探し求める男」と言うキャラクター性が加わりました。乱暴者だけどあいつはいいやつなんだ、と言うキャラに、なんともいえない神秘性と深みがぐっと加わって、一気に渋いキャラになったわけです。
 そんなウルヴァリンの過去は、ときに語られ、時に「それは植え付けられた偽りの記憶」と言う事になり、どうやら同じ過去を共有するらしい宿敵セイバートゥースと戦いを経て、どんどん錯綜していきました。しかし、その物語はやはり、ウルヴァリンが青年になってからの戦いの最中に起きた事件がやはり多く、彼のほんとうの過去と出生を語る物語は、いまだ藪の中だったのです。

 今作は、紆余曲折を経てようやく語られるようになった、ウルヴァリン自身も知る事のなかった、ウルヴァリンの本当の過去が綴られる、決定版と言うべき内容です。
 年齢不祥の老いぼれカナダ人、ウルヴァリン=ローガン。彼はいつ、どのような土地で生まれ、どんな少年時代を過ごしてきたのか? そしてどんな理由があって、三本爪を持つミュータントの狩人、ウルヴァリンとなったのか?
 ウルヴァリンが主演となる最新作の映画公開合わせで、邦訳が刊行されたこの一作。これまでウルヴァリンの活躍をどこかで見るか聞くかして、その男振りに惚れ込んだ事のある人には強くお勧めする次第でありますよ。

 付け加えると、巻末で語られている、このウルヴァリン:オリジンが刊行されるに至った経緯も、また職業意識に溢れたエピソードになっています。こちらも是非、見ていってほしいと思います。

 あとそうそう。
 ウルヴァリンの話でちょっといい話と言うと、MARVEL Xの一巻に載ってたサイクとジーンの結婚式の話が好きでしたね。
 教え子が結婚して、息子と娘がいっぺんに片付いたような気分で、嬉しいけどなんとも寂しい心持ちのプロフェッサーXに。たった一言書いた手紙の文面が「元気出せよ」。
 サイクとジーンとローガンの関係を知っていると、余計こうねえ、と言う感じですね。いい人だなあ。恐いけど。

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