インセプション、あるいは胡蝶が夢のあと(☆☆☆☆)
遅ればせながら、やっと見て来ましたインセプション。
さすが豪腕、と言う感じのすごい映画でした。僕は大好きですけどこれ、サイトのレビュー欄が「なにこれわけわかんない☆1」で埋め尽くされるタイプの映画のような気が、すごくする。
眠りの中も誰かに狙われ、夢すらも己ひとりのものではなくなった世界。他人の潜在意識に潜入し、アイデアを抜き取る「抜き取り屋」コブは、相棒とともに活動する一種の産業スパイ。だが仕事の標的にすぎなかったサイトーが、彼にある仕事を持ちかけた時、コブの挑戦は始まった。
それは「インセプション」。普段の盗みとは全く異なる領域。長年の相棒アーサーですら不可能と断言したこの仕事を、しかしコブは引き受ける。前科を消し、愛する家族にもう一度会うこと、それがコブの最大の望みだった。
世界を回り、コブとアーサーは必要な人材を掻き集める。<設計士>、<偽造師>、そして<調合士>。監視役のサイトー自身を加えた6人は、ターゲットの情報を集め、夢の設計図を書き起こし、インセプションを成功させるための綿密なシナリオを練り上げた。
そして計画は動き出す。ターゲットを罠にかけ、何が起きているのかも知らぬままに開始されるインセプション。
だが、突入直後の初手の段階で、完璧なはずの犯罪計画は大きくほころび始める。
いるはずのない敵、あるはずのない女に翻弄されるコブと仲間達。今いるのは誰の夢なのか、誰の願望の産物なのか。多層構造に入り組んだ夢の世界。
自らの敷いた罠と迷路に閉じ込められた6人の、達成と脱出のための果てしない苦闘が始まった。
とまあこんな感じで、「頭の中」「夢の中」に入り込める言わばサイコダイバー達が、他人のイメージとなる夢の中で苦闘をする話なわけです。精神共有世界とかは小説などでは定番テーマではありますが、夢と言う「その中のルールには忠実な不合理」を、すさまじい映像の力で説得的に見せてくれるところが、このインセプションの真骨頂だと言えるでしょう。
夢がテーマだからと言うわけでもないでしょうが、いろんな楽しみ方が出来る映画です。コブ達が完璧な犯罪計画を練り上げてインセプションに挑むくだりは怪盗もののようなノリですし、そのコブと、謎の女モルにまつわるメインテーマは、メタフィクションからサイコスリラーまで幅広い受取り方が出来る、じっくり咀嚼してみたい主題です。現実に対する夢、さらにその夢の中で夢に突入する、と言う重層的な世界構造は、物語の組み立て方として、それだけで十分過ぎるほど魅力的です。冒頭のシーンで、すでにその世界構造は紹介されているのですが、あそこでついていけなかった人は、たぶん最後までおいてけぼりだったんじゃないかなあ、とか。
そんな重い、驚くような主題に酔いつつも、それとは全く違う見方ができちゃうのが、なんていうかこの映画の懐の深すぎるところで。主観で世界の見え方が変わってしまう「夢」と言うものを、真っ正面から映像化したがために、生真面目にやりすぎたがための「過剰の面白さ」が出てきてしまっている、えー、つまりですね、シチュエーションがもう面白くて面白くてしょうがないバカ映画みたいになってしまう、その一歩かもうちょっと手前で立ち止まっているあたりが、なんとも心憎いです。ギミック的に思いついたからやってみた、みたいなシーンもあって、これもまた、なんとも。
まあ確かにね、夢だとこういうことあるよね、みたいなシチュエーションを…… 現実で水浸しになると、夢ん中も水びたしになるとか…… を、CGフル動員して、ディカプリオが演じていれば、そりゃあなんていうか、やりすぎで吹き出してしまう直前と言う感じになりますよ。ウス。
ノーラン監督にやらせると、こんなおもしろいものが撮れちゃいますよ、と言う非常に良い映画です。もっと語りたい事はあるのですが、核心にぐっさり刺さってる話だけにちょっと口に出せないのが惜しい悲しい勿体ない。
疑問点もいくつかあるけど、それはともかく面白かった! と言うタイプの映画でありますして。是非、映画館で見て来て、巻き取られてもらえればと思います。こちら、ちょっと理解が難しいかも解りませんが、夏お勧めの一作です。
きっとこれ、ブルーレイとかでごっつい映像追加されたディレクターズカット版出るんだろうなあ。そういうタイプの映画だと見ましたよ。はい。
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