僕らガタガタ震えてキックアス。(☆☆☆☆)
「キック!」「アース!」で記念写真。
見ているだけの君でいいかい?
『仮面ライダーアギト』のオープニング、二番ではこう歌っていました。キックアス。見ているだけではいられなくなった少年の、これは滑稽なまでに真剣な物語です。
ミュータントも宇宙人もいないけれど、マフィアや車泥棒やカツアゲや、それを見て見ぬふりをする大人はいる、そんな普通の世界。デイブは普通の世界のどこにでもいる、ごく普通もしくはそれ以下のヒーローオタク。趣味の仲間とマニアックな話題で盛り上がり、女の子が自分を見てるかもと勘違いし、冴えない自分と冴えない周囲に、「フィクションみたいじゃない現実」に、つねに苛立ちを向けている少年だった。
やるせない彼の気持ちは、ある日うっかりあらぬ方向に暴走する。ヒーローを待ってるんじゃだめだ。ヒーローになろうとしたのだ。ネットで注文した微妙な緑色のタイツに身を包み、ニュースター『キックアス』を名乗った彼は、初出動でボッコボコにされて腹を刺された挙げ句即入院、散々な船出に見回れる。しかしデイブはめげなかった。暴力を見て、何もしないのが厭なんだ。ボコボコにされながらも訴えそして戦い続けるデイブの姿は、youtubeに投稿され、それがマスコミに取り上げられ。あれよあれよとキックアスは時の人になっていく。
--一方その頃、街を牛耳るマフィアのダミーコは、甘えん坊の息子クリスと縄張りで起こる異常事態に悩まされていた。麻薬取引に介入する何者か、惨殺されていく部下達。街の暗闇に隠れダミーコの組織を攻撃していたのは、ビッグダディとヒットガールと名乗る過激な自警団、ヴィジランテの親子だった。
血の雨を降らせ情け無用に暴力を振るうヒットガール達と、ダミーコ率いるマフィアの対決に、実に間の悪い形で巻き込まれていくキックアス=デイブ。
迷い、殴られ、心と体から血を流しながら、デイブは行動で自分の命題の答えを出そうとする。なぜ誰もヒーローになろうとしないのか? 自分は一度でもヒーローだった事があったのか? 車泥棒のチンピラにもボコられる気弱な少年デイブは、果たしてヒーロー・キックアスになることができるのか--。
コメディ、って銘打ってますけど、うっかりまじめに感想を書いてしまう熱い映画です。そもコメディって最低二通りはあって、登場人物が笑わせようとしている映画と、登場人物があくまで真剣で、真剣であるがゆえに笑わざるを得ない映画とがあると思うんですが、これはまぎれもなく後者に属する部類。
デイブははじめから最後まで真剣で、ヒーローがいない現実に悩み、憤り、彼なりに命を懸けて行動しようとする。能力はまあどうあれ、自分にヒーローの資格があるかどうか、自分が本当に必要なのかどうか。彼なりに真剣に、彼なりに精一杯誠実に悩み続ける。そして、どんなに悩んでも、悩んだからと言って強くなるわけではない。その真剣な姿は、たまらなくおかしくて、そしてどうしようもなく悲しい。
一方、敵役であるダミーコも、暴力で街を牛耳るマフィアのボスであり、犯罪をビジネスにする悪人であることは間違いないにせよ、異常事態や部下達や息子にまで惑わされながら、彼の把握できる範囲で常識的に、真剣に物事を判断しようとしている。つまり、彼ら二人はあくまで常識の範疇にいるわけです。
そしてそこにナイフと銃弾で遠慮なくこんにちわしてくるのが、世にも恐ろしい親娘、ビッグダディとヒットガールの二人組。迷いなく淀みなく、むしろ無邪気なまでに楽しそうに暴力を振るう幼いヒットガール。そしてそんな彼女を父親として、殺人術の師匠として暖かく見守る、やるせない狂気をその目に宿したビッグダディ。なんていうか、この親子の登場シーンはほぼ全て見所といっていいほどで。仲のいい親娘のほほえましい会話に見えるシーンの、会話の内容がおおむね言って狂ってると言う凄まじさ。
この親娘がマフィアを一方的に圧倒し虐殺する(結果的に殺している、ではなく、的確に止めまで丁寧に刺している)様は正しく圧巻。くわえてヒットガールのメッタ殺しタイムが始まると、やけにキュートな歌声で♪なーなーなななー ばななーがーる みたいな曲が陽気にかかるのも、おかしさに拍車をかけています。そんなかわいいBGMに、画面は血しぶき飛び交うヒットガール無双のガン=カタ状態。もうものすごい。
機会がなかったので原作は未読だったのですが、ただ気軽に見に行ってもいいし、正義についての考察を求めて見に行ってもいい。これが上映館少ないなんて正直惜しい。そんな作品でありました。見られる環境にある方は、ぜひ見に行くべきであります。あ、グロはありませんが、血しぶきはかなーり飛びますし、ヒロインが鼻血出したりもしますので、そのへんだけはご注意ください。
堪能堪能。それにしても、前評判に違わぬ作品でした。
さて、次は原作本探さなくっちゃー。
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