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2011.02.04

銀牌侠/シルバー・エージェント(☆☆☆)

もろこし銀侠伝 (創元推理文庫)

もろこし紅游録 (創元推理文庫)

 時代を超え姿を変え、中国の民草の間に語り継がれる伝説の存在・銀牌侠。
 時には智恵を、時には武芸を戦わせ、世を惑わす不可解な事件に颯爽と立ち向かい、御意見無用の銀牌の前には武林の権門も時の皇帝も遮る事は能わない。
 ある時は武芸の達人の不可解な死に挑み、ある時は陸続と被害者の続く連続殺人の謎を解く。春秋戦国時代から中華民国の時代まで、歴史を前後に飛び交いながら、中国文明のシステムを影ながら貫く一筋の糸、銀牌侠の活躍は語り継がれる。

 なんだかほっこりしたカバーイラストにユーモラスな感じのするタイトルと、これだけ見るとどういう中身の本なのかさっぱり判りませんが、古典的な推理小説のスタイルを、中国史と武侠小説の舞台に放り込んで編み出した、武侠推理小説とでも言うべき独特な連作小説です。銀牌伝・紅游録、中短編あわせて八作。

 中国史の裏、と言うか江湖つまりは民間と武術の世界に代々伝わる、まあ名探偵的存在である「銀牌侠」。と言っても時代が違うので、師から弟子へと代替わりしており、今の銀牌侠が誰か? と言うのを示すアイテムが、すなわち「銀牌」であるわけです。事件関係者とややこしいことになりそうになったら、これをちらりと見せれば、うッ、と押し黙ってみんな協力的になる、と言う、レンズか印籠かと思わせる身分証。
 銀牌の存在は、この作品の特徴を明白に現すものです。古典もので、探偵役が関係者を一同に集めたら、真犯人であっても逃げないでその場に行くのがセオリーであるように、この作品は「舞台となる世界観」に非常に忠実に組み立てられており、そのバックボーンとなるルールに従って、動機があり、凶器があり、そして事件そのものがある。その背後には、武芸者の世界- 武林にとっては当然であるルール、そして時代背景を考えれば首肯せざるを得ない様々な事情がある。
 だからこそ、面白いのです。現代人の、あるいは現実の人間の目から見て奇異であり不合理であっても、作中の舞台と時代から見た合意性にきちんと全てが沿っている。だからこそ、謎解きは突拍子もなくとも、納得できるものになるのですから。

 とまあ、事件の謎とともに面白いのは。一作ごとに時代も登場人物も入れ替わる作品群なので、誰が犯人なのかはもとより、誰が探偵役なのか(「真の」とつけてもいいでしょう)が良く解らない、と言うところ。
 そして探索の結果、事件の真相が明らかになっての、そののちの展開-- 即ち、いわゆる探偵ものであれば警部と警官隊が逮捕して終わり-- をどう片付けるのか、と言うところに、探偵と関係者が注力するところでしょう。謎を解くのは、銀牌侠達にとって仕事の前提でしかなく、その謎をどう畳むのか、が、真に彼らの腕の見せ所となるのです。

 元々は水滸伝の好漢達を主人公にして、推理ものを書こうと思って書き始めた、と言うこのシリーズ(「悪身滅銭」では実際に燕青が主人公格です)。連作二作で、銀牌侠の始まりと終わりを書き上げたわけですが、まだまだ続きが気になるシリーズだと思います。

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