クレープを二度食えば(☆☆☆)
とり・みきと言えば、空間があればボケる、間があれば何気なく登場人物が感知しなくてもボケる、みたいな、濃密に生真面目にギャグを盛り込んだ作風のギャグマンガがメインなんですが、そういったギャグマンガでも、作品の組み立ての巧みさ(そして外連味から素直さな感情の吐露まで、言語の豊富さ加減)はとんでもないものがあります。それを存分に駆使して、中高生向けの時間SFをきっちり組んでいるわけですから、これが面白くないわけがありません。
言いがかりじみたきっかけで罰ゲームを背負い込み、原宿のクレープ屋でとんでもない名前のクレープを食わされる羽目になった主人公が、次々と不可解な状況にぶちあたり、結果として8年前からタイムスリップしてきた記憶喪失の少女と遭遇し、彼女のために協力することになる…… のですが、冒頭から結論まで全てをかっちりと組み立てている…… スルーしてもいいような話まで、きちんとフォローしている…… 力業や偶然に頼らない細やかさ。全ては、なるべくしてなる。しかしその上で物語である。時間もののテーマとして秀才的な出来だと思います。
これ事態非常にいい作品なので再販されてくれて嬉しい限りですし、これでもっと人気が出てアレとかコレとか続きが出てくれると嬉しいなあ。と思います。
で、ちょっと今読み返して思う点。作品そのものは古い作品なのですが、作中後半でキーパーソンとなる鈴木と、彼を取り巻く色々な攻防戦を見ていると、これって本当に昔の作品なのだろうか、と言う気がしてきます。当時からそういう事は普通にあって、今でもそれは変わっていない(むしろ当時は伏流として水面下にあったものが、今は色々な意味で市民権を得てしまった、と言うか)気がします。変わるものはあっても、変わらないものもあるのかもしれません。
短編も併録されていますが、お勧めは表題の「もう一つの転校生」と、中盤にある「カットバック」。
もう一つの転校生は、映画「転校生」を下敷きにしたオリジナルストーリー。一組の男女に映画と同じ事件が起きる…… のですが…… ぞくっとするラスト、そしてリフレイン。
「カットバック」は、こちらは映画をモデルにした作品。ラストの台詞がどうなるのか、途中でどうしても判ってしまうはずなのに、実際に目にすると、かくあるべしとばかりに突き抜けてしまう。「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」もいいなあ。まあきりがないのでこのへんで。
またすぐに「幻の作品」になってしまうかも知れませんので、ともかく一読をお勧め致します。とり・みきと言う人のイメージが変わる、と言うか、広がる事請け合いの作品集です。
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