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2011.06.07

バンコク、奈落の坩堝にて(☆☆☆☆)

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

 とりあえず上巻だけ読了、パオロ・バチカルピの「ねじまき少女」。
 バチカルピさんという聞き慣れなさすぎる響き、一体どこの国の人なんだと思っていたらアメリカの作家さんなんだそうです。これだけだとなにもわからねえ!(コロラド出身だそうです)。

 そして読んで見た本編。なんだか大槻ケンヂの小説みたいなタイトルですが、あらすじやアオリから想像するようなものとはちょっと違う、最近呼んだ本の中では「オルタード・カーボン」に近い感じの手触り、SF的世界を背景にした冒険小説といったていの代物でした。
 なんといっても面白いのは、エキゾチックな舞台背景そのもの。石油が枯渇し、エネルギーの中心がなんと「ネジ」…… コンパクトサイズでとんでもないエネルギーをため込めるネジを、遺伝子改造されたゾウ、メトゴンドの力で巻いている世界。

 そのメトゴンドを作り出したようなバイオハザードによる生態系汚染により、かつて生態系は破壊されつくし、世界経済は一度は破綻。そしていま再び欧米を中心とした資本主義社会は、繁殖しない農作物を輸出する「カロリー企業」として、東南アジアの各国の経済を操作し、社会を取り込みながら拡大しつつある。混乱する社会の中で、黄禍論とイスラム原理主義が混ざったような過激派はマレーシアで華僑を大量虐殺し、アヘンやら石炭やらを争う果てしない内戦では、「ねじまき」と呼ばれる人造生命の兵士達と人間達がゲリラ戦を繰り広げている。

 そんな東南アジアで唯一、カロリー企業の支配も、海面上昇による水没も免れてきた、タイの首都バンコク。はるか海抜下、湿度と熱気と政争にうだるこの街で、謎の目的のために暗躍する西洋人、マレーから生き延びた華僑の老人、かつては圧倒的な権力を誇った環境省エリート部隊に所属する士官、そして美しい玩具であるねじまき少女らが、それぞれ関わり合いになりながら大きな事件に巻き込まれていく…… と言う筋立てです。

 このディストピアなバンコクの、不潔でうだるようなそれでも不思議な魅力が、この街の描写がとにかくこの本の背骨だと感じます。そしてその上で行動する主人公達が、それぞれファラン(西洋人)、タイ人、華僑…… それも、生存権そのものすらも常に脅かされている、難民として扱われている…… の立場として、それぞれが自分とは異なる社会を、罵り恐れながら折り合いをつけて生きている。分厚く多層的な街の描写は、エネルギーや食料といった分野の首根っこの奪い合い、と言うSF的な仕掛けも相まって、まさに生々しい異世界と言う感じ。

 タイトルのわりにねじまき少女=エミコの活躍と言うか活動はそれほどでもないと言う感じですが、このあたりは下巻に期待でしょうか。作者が過去に何回か使っている舞台らしく、世界観特有っぽい単語が今ひとつぴんとこない(「カロリーマン」とか)ところはありますが、それを差し引いても非常に興味深い。そんなわけで、また下巻を読破しましたら、感想とか書いていきたいと思います-。

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コメント

昔は混沌の街と言えば魔都・上海だったものですが。

ブラックラグーンの舞台もタイの架空都市だし、昔読んだリチャード・コールダーもバンコク舞台で混沌とした街だったし。
最近はバンコクの方がカオスなのかしら。

投稿: 蘭堂 | 2011.06.09 00:27

 今日初めて知ったんですが、ハングオーバー!!の続編はバンコクが舞台なんだそうですよ。
 いま架空の街にするのには、バンコクが一番熱いのかも知れませんな-。

投稿: sn@散財 | 2011.06.13 00:10

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