「ねじまき少女」:途切れた夢はどこへ向かって(☆☆☆☆)
上下巻通して読むとこの小説、まるでドミノ倒しか雪崩のような構成でした。
前巻のほぼすべての尺を使って、ディストピアな世界観、近未来のバンコクの夜のうだるような蒸し暑さ、そしてそこにへばり付いて生きている登場人物達、派閥に分かれ睨み合うタイ人、華僑と西洋人とねじまき、彼らの姿と心情と対立を、丁寧に丁寧に並べていく。ただ、上巻だけではそれほど物語が動いている、と言う気配は感じません。むしろ、あまり動かしていないかのように見える。神経質に、息を詰めながらドミノを並べているように。
そして下巻の冒頭の事件で、張り詰めた糸がぷつんと切れたかのように物語は動き出す。最初は少しずつ糸のように、そして途中から突然どかんと。ありとあらゆる方向に丁寧に並べられたドミノが一気に崩壊していく、溜めが長かっただけに急転直下の勢いも物凄く、一気にラストまで文字通り雪崩れ込む…… というかむしろ、最後のほうになると残りのページこれだけなのに本当にまとまるのかと心配になる…… ような、緩急がつきすぎて疲れるような物語でした。
色々と回収されなかった、と言うか、尻切れになってしまった感のある伏線もそれなりにあるのですが、あの終わり方ならば仕方がないかな、とも思う次第。
ところで上のような感想を抱いたのは、自分が若干飲み込みが悪いせいもあって、つまり下巻に入ってからようやく、登場人物と彼らの行動理、何が目的で、何が彼らにとって目下問題なのか、と言う事をようやく飲み込めたからなのかも知れません。
もちろん展開の都合上、伏せられていた事実もあるとは思うのですが、物語世界特有の用語や概念について、ちょっと飲み込みが難しかった点もあったかなーとは思います。作者は同じ世界観で、もう短編を何回か出しているとのことなので、そのへんの「シリーズ既刊で説明済み」効果みたいなのは、若干あったのかなー、とか思います。
そういう意味では、ねじまき少女の世界観解説とかあると面白そうだな-。と思いました。どう考えてもネタバレし放題ですが。
食い出のある世界観を想像せしめたと言う意味では、確かにスチームパンクの嚆矢になぞらえられるのも分かる気がします。この登場人物達のと言うよりも、このディストピアな背景世界の続きを、ぜひ読んでみたいなあ。と、そんなことを思った小説でした。
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