名探偵のいない街、因果のドミノはどこまでも貰い事故(☆☆☆)
タイトルの通り、すべてのタイトルがホームズものにちなんでつけられている連作推理小説。とはいえ普通の小説がそうであるように、、同じ名探偵がいくつもの事件を解決する、と言うスタイルの連作ではありません。この小説は舞台を主軸に据えて、ある「街」で起こったいろいろな事件を、時間軸を相前後させながら描いているわけです。
そして、それらすべてに通じているのは、タイトルにもある通りの、ホームズものへのちょっとしたいじり。それぞれの作品は、浅い深い(いくつかはタイトルの語呂合わせくらいだと思いますが)の違いはあれ、それぞれ有名なホームズの短編中編に相通じる、あるいは元ネタを読んだ事があれば、ニヤリとする(あるいはイラッとする)ネタを仕込んできています。そういう意味で、リスペクトと言うよりいじりと言った方が正しいような手触りなわけで。
それはそれとして、元々ショートショートが大の得意と言う作者さんらしく、どの作品も意外な展開と割り切れないラストに、すっきりした底意地の悪さを感じ取れます。あっと言う間に終わるような短編の切れ味が鋭いのも、この人の本領だからなんでしょうねー。
そして面白いのは、それぞれの話は時間軸を相前後させ、登場人物を微妙に共有しながら、それぞれがそれぞれの短編として進んでいきます。そして、別の話でなんでもない些細な事として語られた事実が、別の話で重要な、それこそ事件のトリガーとなるような事項として取り上げられる事になるのです。
道楽者のへんくつ老人ばかりが集まる美術クラブで、なぜかナポレオンの瓶が次々と割られる「六本のナポレオン?」から始まり、一人息子が誘拐されたシングルマザーが盗聴癖を駆使して反撃に出る「あやしい一輪車乗り」、皮肉に満ちたホームズ論でありながらサスペンスフルな「五つも時計を持つ男」、他人の家のベランダで爺さんが悶絶していた事件が、わずか6頁でとんでもない結末に辿り着く「吐く人」などなど。若干リンクがよくわからない部分もありますが、固有名詞が出るたびに、あれ? ひょっとして? と前を読み返したくなる構成具合は、とんでもないものがあると思います。
これもう一回くらい読み返さないといけませんねーやっぱり。不意打ち的に満足した、そんな一作でありました。
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