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2011.06.23

僕僕先生罷り通る。(☆☆☆☆)

僕僕先生 (新潮文庫)

薄妃の恋―僕僕先生 (新潮文庫)

 大唐国も盛りの季節。のちに開元の治と称えられた時代。楊貴妃との恋もまだ知らぬ、若き玄宗皇帝の御代。
 だが繁栄の世にも必ずや影がある。王弁はそんな繁栄の影のひとりであったのかも知れない。
 なんていうかつまり、王弁はすんごいモラトリアムな人だったのです。

 下級官吏の父の稼いだ財産を、ほそぼそと食いつぶしてだらだら暮らしているのが、我らが主人公・王弁君。真面目に働くでもなく、さりとてすごい無駄遣いや贅沢をするでもなく。善人でもないが悪人でもない、なんていうか箸にも棒にもかからないこの大きな息子を、引退した父も現役管理の叔父も持てあましがち。
 ある日、仙人マニアの父親の(趣味の)言いつけで、近所に住みついたと言う仙人のところに手土産を持っていくことに。ばからしいなあと思いつつも、父に頼まれると嫌とは言えない王弁君。ところが黄土山を登っていった彼は、そこで本当に本物の仙人に出くわしてしまう。それが僕僕先生-- 姓は僕、名は僕、一人称もボク。実年齢不詳の偉そうな外見上美少女仙人だったのである。

 なりゆきで僕僕先生の弟子となった王弁君、事情があって僕僕先生の旅に同行する事になる。故郷どころか家からもほとんど出なかった王弁のはるかな旅、北へ南へ異界の果てへ、顕官に出会い天神に出会い、ほのかな憧れとはみ出し気味の下心をからかわれつつ、仙人と凡人と、きままな師弟のきままな旅はどこまでも続く……。

 そんなわけで、すっかり気に入ってしまいました。中華風ファンタジーにあらずして、中華仙境ファンタジーと言うべき「僕僕先生」シリーズです。いやー、本屋でイラストが気になった時に早く買っておけばよかった…… こんな面白かったなんて。

 そんなわけで、どこを切っても恥ずかしくない凡人、でも正義感も人情も、人並にはある王弁君と、不老不死にしてあらゆる術を操り、人の心を当然のように読んではからかいに来る、時に人倫と微妙にずれた酷薄な倫理観も覗かせる僕僕先生、この二人のレギュラーの取り合わせと会話だけで、もう十二分すぎるくらいおもしろがれます。これに多彩なサブキャラクター達が絡み、続刊となる「薄妃の恋」以降は新たなレギュラーキャラも加わって、あてどもない-- と言うと、まるで悲壮な感じになりますけど、ほとんどそんなことはなく、足の向くまま気の向くまま、行く先々で酒と名物を心ゆくまで楽しむ-- 旅路の物語が描かれます。行く先々で出会う事になる人々もただ普通の人々のみならず、主に僕僕先生の関係者である、異界の神々や神仙達が普通に現れてきます。彼らと人間とのあいだの、本来隔てられているはずの距離感が、主人公師弟との関わりで取り払われて。決して性から悪なわけではない、人間臭い神仙と、もちろんより人間臭い人々との関わりが、実に魅力的なのです。
 そういえば出てくる神仙や怪異達に、割と奔放なキャラクター付けはあったりするものの。出てくるギミックや出来事などが、忠実に-- 史実に、と言うよりも、中国幻想世界に忠実に-- 描かれている印象なのが、なんともまた、たまらなく好きなところはあります。本当に詳しい人から見たら違いが分かるのかも知れませんけど、そういう意味で、中華風ファンタジーではなく、中華仙境ファンタジーだなあ、と思うのです。

 なんか長ったらしくなりますけど、せっかく文庫になっていることですし。面白くて、しかも読み手を選ばないと言う意味で、わりとどなたにも勧められるんじゃないか、と自分では思います。是非ほんと読んでほしいなあ。と、そうほんとに思う作品です。
 そんなわけで自分なんかはもう一気に三巻目の「胡蝶の亡くし物」まで買ってきてしまって、一気に読んじゃうと勿体ないナー、とか躊躇っている塩梅ですよ。

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コメント

こちらで見て僕僕先生読んでみました。
書き口が面白かったので、2日ほどで4巻目まで読んじゃいました。

投稿: コイズミ | 2011.07.12 12:37

 ややや、ありがとうございます!
 内容が面白いのもさることながら、するする読めるのも嬉しいですよね…… って、もう追い抜かれている!(笑)

 文庫に落ちるのを待とうと思っていたんですけど、うーんむ。どうしましょうかなあこれ(笑)。

投稿: sn@散財 | 2011.07.14 22:28

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