魔王の名は武則天、宮廷と言う名の魔界の中に。(☆☆☆)
唐建国にも大活躍し、貞観の治とうたわれた治世を築いた太宗皇帝と、同じく唐の勢いが盛んとなり、開元の治と称えられた玄宗皇帝の時代。
この二人の有名な皇帝の時代の間、早くは夫の皇帝の裏で国政を取り仕切り、のちには実際に即位さえした(そのため唐王朝はいったんここで終わっている)。ただ、追いたる女皇帝の知性の下。宮廷は廷臣、宦官や女官皇族が皇帝の寵と権勢を競っていました。民間は武則天の悪政で暮らしにくい時代であった、と言うのが通説のようですが、なにしろ嫌われている人はとことん悪い評価をされるのが中国史のつねなので、なかなかどちらとも言えないようです。
そんな武則天の時代、宮廷に出仕し、武則天に仕えた双子の兄妹。宦官とされた兄・馮九郎は、頭脳明晰にして眉目秀麗、物静かな挙措の優等生ですが、その実は誇り高さを持て余した、屈折した偏狭な皮肉屋。
外面はいいのに偏屈な兄に、つねづね毒舌をぶつけられて閉口しながらも。時に励まし時に尻を叩くのが、うり二つの双子の妹・馮香漣。
兄妹の後見人にしてライバル、言わば警部役の高官・李千里。お調子者の後輩宦官や義侠心に溢れた伎女などの面々が、都と宮廷につぎつぎと起こる怪事件-- 三年続けて花の季節に起こる宮女の怪死、氷細工を操る彫刻師の死の謎、そして不良貴公子ばかりが次々と誘拐されると言う不可解な誘拐事件-- それらの謎を解き明かし、解決に導くために奔走する事になります。
やはり舞台背景と主人公の立ち位置の難しさが、この作品群の面白いところ。真相が分かったところで、それをどう解き明かせばいいのか、と言う煩悶。そして気紛れな女帝が君臨する宮廷と言う世界にあっては、事件をあざやかに解決することが。己の才気を示してしまう、と言うその行為自体が、敵を作り出し、己の身を危険にさらすことになりかねないのです。
歴史上の人物が織りなす不可能事件の数々、そしてやがて来る次の時代へとつながっていくラスト。ロジックよりもキャラクターの魅力…… 誇り高く冷酷でさえある九郎と、陽性でめげない香漣の二人の組み合わせはとりわけ…… で引っ張っている感は強いですが、非常に魅力的な作品群でありました。
中華ミステリと言うのはそれほど多くない気がするので、この方の作品ももうちょっと探してみたいと思います。
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