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2012.06.26

一つの真相、六つの推理。毒入りチョコレート事件(☆☆☆)

毒入りチョコレート事件 (創元推理文庫 123-1)

 wikipedia(ネタバレ重注意)によると、この小説。日本ではじめて紹介された時のタイトルは「毒殺六人賦」だったのだそうです。なにそれかっこいい!
 ちなみに、時は昭和9年。そして原作は1929年と云う、古典推理小説です。

 アンソニー・バークリーのこの推理小説。名前ばかり聞いていて初めて読みましたが、ずっとのちのコリン・デクスターを思わせるような、推理と破壊の再構築を繰り返す、パズル的な内容であり、しかも(未読なんですけど)作者の別々のシリーズに登場する二人の探偵、シェリンガムとチタウィックの両方が登場する、と云うクロスオーバーものでもあるのです。こうして振り返ると、当時盛り込めるものをかなり大盛りにした作品だったんでしょうね-。

 ロジャー・シェリンガムが主催する、著名なメンバー六人からなるアマチュアサークル・犯罪研究会。
 この研究会にある日、警察から未解決事件が持ち込まれる事になる。
 概要はこう…… クラブにいる、ある紳士の元に、試供品と云うチョコレートの箱が配達されてくる。チョコレートに興味がなかった彼は、たまたまそこにいた別の紳士にこのチョコレートを譲ってしまう。そしてこの紳士はチョコレートを家に持ち帰る。彼は妻と分けあって、それを食べ…… そして、妻は死んでしまう。チョコレートは毒入りだったのだ。
 人が死んだ。殺された。いつ、どうして、それは判る。だが、誰が、一体何の為に?
 一見単純に見えながら、手掛かりが途絶え暗礁に乗り上げたこの事件。六人の即席探偵達はそれぞれの手法で謎に取り組み、一夜ごとにそれぞれの辿り着いた真相を語っていく事になる。
 一夜ごとに空かされる、それぞれの立場からの真相。前夜、手掛かりと証言から構築された真実が、次の夜には解体され再構築され、全く別の真実へと生まれ変わっていく。ひとつの死体、六つの真相。果たして六人の中に、真の真相に辿り着ける者は現れるのか……。

 というわけで、決して多いとは言えない手掛かりと登場人物とを(なにしろ名前のある登場人物のほぼ半分が探偵達なわけで)、探偵達が一夜ごとに、それぞれの立場から組み立てていき、事件の真相を明らかにする。その次の夜には、それを踏まえて。それまでの事実を補強し、仮説を破壊する別の仮説が組み立てられて、全く別のストーリーが語られる、と云うような、パズルっぽい雰囲気の推理小説です。
 探偵役の人々、それぞれの職業や性格に応じて、重視する点と軽視する点が異なるくだりや、一夜ごとに推理が公開されていく、と云う趣向から、「出番を終えた人」や「これから出番の人」の、内心の考えや動揺。そして人によっては調査のシーンが大きく取られたりといった、描写や演出の仕方をそれぞれの探偵によってちょっとずつ変えてもいく。まるでひとり競作でもしているかのような、短くも面白い作品でありました。

 惜しいのはこれ、kinoppyの電子版なので、例によって解説がついていなかったこと。……これがどういう背景を持っている小説なのか、みたいな蘊蓄は是非読みたかったので。勿体ないなー、惜しいなー、というところです。まあ、判ってて買ったんですけどね……。はい。
 ともあれ、この人の小説も是非気になる。と云うところで、チェックしたい作品がまた増えた塩梅です。

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