Truth,Justice,and the Guinness way!(☆☆☆)
とまあそんなわけで、三月に出版された本なのですが、ようやく読了致しました。
ギネス。世代にもよりますが、たぶん小さい頃にはギネスブック、ギネス世界記録と言う関連でまずはじめに耳にして。人によってはずっと後年になり、ビールの名前としてもう一度耳にすることであろう名前。
あのギネスとこのギネスは一緒なんですよ、と言うだけで、多少のびっくりネタになる気はしますが、そもそもギネスはアイルランドの名産品。今でこそ、その製造元であるディアジオ社の本社はロンドンにありますが、前身であるギネス社の本社は、ずっとアイルランドの首都、ダブリンにありました。
さて、この本の主題は二つ。ギネスビールを生み出し続ける会社、ギネス社と、そのギネス社を生み出し、運営し続けた、アーサー・ギネスを祖とするギネス一族。そしてギネス社が、ダブリンに、アイルランドに及ぼし続けた影響をまとめた、五代にもわたるギネス年代記でもあります。
まずは西洋の歴史、文明の黎明とビールとの深い関わり…… ビールが文明を生んだ、とまで言及する、酒と世界史、キリスト教と世界史の物語から語り起こし、文明とともに歩んできたビールの歴史に、始祖アーサー・ギネスがギネス社とその王朝が名を連ねます。
それは成功した男の一代記ではありました。よりよきビールを造り出し、より多き冨を得たアーサーは、正義と信仰に突き動かされて、その冨を大きな目的のため、大胆に投じたのです。よりよきビールで得た富で、よりよき会社を。よりよき社会を。
アーサーの息子達、孫達は、ある者はギネスの王朝を受け継ぎ、別の者は信仰の道を歩んでその道に不朽の名を残しました。財界に進む者、政治に進む者。そして、繁栄する一族に避けられぬことながら、冨と名声に押し潰されて悲惨な最期を遂げていく者。しかし役立たずの変人だと思われていた男が、社会の危機にあって、先頭に立って奮戦する姿を見るとき、そこには確かに心滾るものがあります。
儲けたければ、周りを儲けさせる者であれ。貧しいとは言わないけれど大金持ちでもない自分としては、そのスローガンを読んだ時、なにがしかの反感を覚えなかったと言えばウソになります。
しかし、この言葉はより具体化された宣言でした。愛されたければ、まず周りを愛しなさい。その精神を、作戦を練り、覚悟を固め、力持てるもの、金持てるものが。奢らず、恐れず。おのが持つその力を最大限に発揮したとき、どれほどのよきことができるのか。
住宅の改善、聖堂、大学、医療制度。計画化し具体化され、善行、社会への貢献と言う言葉で済ませるには、あまりにも巨大なその蓄積。その言葉を支えている、始祖のたじろぐほどの情熱。そしてよりよき精神を受け継ぎ、伝統を墨守することなくその精神をこそ守り続け、期を外さず発動させてきた後継者達。
原文の良さもあると思いますが、日本語訳も見事な訳で、内からなんていうかいろいろ突き動かされる、これでもかとわしづかみで揺さぶり続ける。力のある、燃えている文章です。
これは危機一髪を切り抜けた逆転のドラマでもなければ、己の命を犠牲にして多くを救った物語でもない。選ばれた一族が、その責務をいかに果たしてきたか、その物語と言えるのではないでしょうか。
後書きで著者自らが書いていますが、この本は言わばギネス一族の社会貢献について、光の面についてのみ書かれているものなのでしょう。ここには書かれていない負の側面、闇の側面が確かにあり、それを知る人がこの本を読んだ時には、眉をしかめて酷評するのかも知れません。
幸いなるかな。僕は無知でした。
まず神は小麦を作り、かなり時間をおいたのち、アーサー・ギネスをこの世に遣わしました。そしてギネス・スタウトはアイルランドに生を受けました。
250年を経た今となっては。地球の裏側にいる、このキリスト教徒ですらない不信心者まで。やや大目の小銭と引き替えに、その奇跡のおこぼれに預かる事ができるのです。すごいことじゃないですかそれって。
感謝を捧げつつ、一杯飲みに行きたくなる。そんな素敵な一冊です。
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