皆の物語を経て、再び相棒同士の物語:TIGER&BUNNY劇場版(☆☆☆☆)
タイガー&バーナビー! 緑と赤、今や誰もが知っている、シュテルンビルトで最も有名なヒーローコンビのスーパースター!
彼らが初めて取り組んだ事件の事を、よもや知らない人もいまい。巨大な彫像が、ライオン像が動き出し、街が大混乱になったあの事件を。ワイルドタイガーが熱い心を見せたあの事件の事を。
だが、ここにもうひとつの物語がある。あの日、あの時、起こっていた、しかし誰も今まで知らなかった、もうひとつの大事件が。
神出鬼没の敵を相手に、8人のヒーロ-は共同戦線を試みる。だが孕むのは互いへの牽制と緊張、足並みは今一つ揃わない。わけても足並みが合う気配もないタイガーとバーナビー。
のちの名コンビの、語られざるもう一つのデビュー戦。辿り着くその決着は果たして……。
というわけで、劇場版タイガー&バニー、さっそく出張って見てきました。さすがに物販列はなかなかの行列で、もう少しでパンフを買うのを断念しかかるところでした(※パンフは普通に買えました)。
劇場版の構成は、ビギニング、のサブタイトル通り、一話~二話の「最初の事件」を再構成し、さらに全くの新規の事件を、かなり多くの尺を使って描いている、と言う構成のこの作品。
後半のすっかり仲良くなった一同ではなく、まだ打ち解けない、と言うか打ち解けそうな気配の全く無い、ライバル意識をかなり強く出しているヒーロー達の姿はなかなかに新鮮で、なるほど、一話の裏ではこういう人間関係だったのか、と言うのがちょっと伺えます。特にブルーローズ。スカイハイは、まあ、通常営業で。
この劇場版の面白いポイントは、物語りなおされることになるストーリーを、焦点をずらして描いているところと言えるでしょう。
元々のテレビシリーズのタイガー&バニーは、たくさんのヒーローが一話から出て来てはいますが。こういった作品でありがちな恰好で、サブキャラ頼りの方向へよれることなく、徹頭徹尾、虎徹とバーナビーの関係から視点がぶれなかった事が、一つの特徴であり、型破りなやり方でもありました。なにしろメインキャラであるヒーロー達にしてからが、最初の数話でなかなか素顔さえ出なかったキャラクターがいるくらいですから。
翻って劇場版では、構成をかなり変えてきて、「ここでこのとき、彼らはどうしていたのか」と言う、他のヒーロー6人達の言わば補完的なシーンを、多く入れ込んできています。タイガー達が苦闘していたその時、彼らはどのあたりでどうしていたのか? あのシーンにあの人がいなかったのはなぜだったのか? 等々。
細かい辻褄を合わせてきている部分もありますが、それぞれの立ち位置やアクション、それにぴたりとはまる台詞の数々は、まさに焦点をずらせたタイガー&バニーと言う組み立て。
それも普通は、いわゆる普通のアニメであれば、テレビシリーズのほうで、劇場版的な、総花的な組み立てを行い、後日談的な部分で重要キャラクターに的を絞ったエピソードをやりそうなものなのですが。その組み立ての順序が、通常とは逆になっているところに、まさにこの作品のユニークな点と、削ぎ落とした構成の妙味があった、と。逆説的に、それを証明している気がします。
だから、と言うわけではないですが、この劇場版の新規のシーンや追加のシーンは、ああもあったろう、こうもあったろう、と想像で補っていたようなシーンのオンパレード。予告でもやっていた、横一列で疾走するシーンからのつながりは、ああ、これこれ、こういうの見たかった! と膝を打つ展開です。
ここで、相棒二人の物語から、物語の構成を皆の物語にシフトを変えて、大きくわっと見せてきて、そして-- まとめの取り方が、また心憎いところ。タイガー&バニーは、なるほどタイガー&バニーなんだな、と大きく頷いて終わらせる事のできるラストでありました。
さすがに暗記するほど見た人も多いでしょうけども。、見込んだ派の人も、また未見の人にも、別々の若干のむずがゆさはありそうな構成ではありますが。ちょっとしたエピソードを前後させることで、説得力を多いに見いだす、この再構築の仕方は、非常に力強いものだと思います。……まあ、個人的には、お気に入りの台詞が若干カットされていたのが残念といえば残念だったのですが。あのへんの台詞は大抵お気に入りなので、何をカットされても気になってたんだろうな、と、あとになって思い至りました……(笑)。
次回作への展開もあり、いかにもタイバニらしいと言うべきか、な仕掛けもあり、と、うまくまとめた娯楽作。
ここを入り口にするのも幸せな出会いだと思います、ぜひぜひひとつ。
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