伏、疎外者は疎外者を知るか(☆)
これは狩る者と狩られる者の物語。主人公は、山から江戸へと降りてきたばかりの猟師の娘、浜路。そして狩られる身である伏達は、信乃、現八ら、八犬士にまつわる名を持つ人間もどき、「伏」達。
これはある種、アウトサイダー同士の物語だと思います。
伏は外見こそ人間とそっくりでありながら、人間離れした運動能力と感覚、短い寿命、人間とは些か異なる道徳心、道義心のもとに動く、「人間のようで人間ではない何か」。彼らは言うまでもなく、人間社会に半分とけ込み、半分はみ出した異形の存在。しかしながら、それを狩る浜路もまた、銃を持てば天才的とはいうものの、山から下りてきたばかりの頼りない身の上。もっと頼りない浪人者の兄・道節が、ただひとり頼りと言う、これもまた、江戸と言う大都市の中では立派なアウトサイダー、疎外者です。
そこに絡んでくる、と言うか、かなり無鉄砲に顔を突っ込んでくるのが、無闇に行動派の瓦版屋・冥土。彼もまた、違う意味での疎外者と言う立ち位置になります。
大都市にとけ込む疎外者同士が、狩る者、狩られる者となり、そこに「なぜ疎外者となったのか?」と言う由来が、語られる因果として、作中劇のようなかたちで語られる…… のですが、読み終えてみて感じたのは、どうにも消化不良と言うか、説明の多寡が偏っているような、そんな印象でありました。
これは主に読み手の好みの問題で、かつまた多いに尺の問題でもある気がするのですが。もっとじっくり語られるべきと思うところが、誰かの台詞でさらりと説明されてしまったり、幻想的な描写が、着地しないまま進んでいる感があるのは、流れ的にちょっともったいないかなあ、と言うところ。
テーマは十分に重く魅力的ながらも、終わりきっていない、と言うか、閉じきっていない…… たぶんそうじゃないんでしょうけど、なにかいろいろ説明的に明瞭ではない…… 感じが、なんだかちょっと難しいと思う作品。
映画版はもうすぐ公開とのことで、あとがきによると、100分と言うとかなり短い尺になりそうなのですが。この物語をどうまとめてくるのか、こちらもちょっと注目していきたいと思います-。
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