莫迦の一念、湖水を崩す:のぼうの城(☆☆☆)
小説版をずいぶん前に読んでから、色々複雑な事情から公開の伸びていたのぼうの城。
今月頭にすでに公開されていたのですが、気ぜわしくて見に行けてませんでした。ようやく時間がちょっととれたので、エクスペンダブルズ2とアルゴとどれを見に行くか迷った挙げ句に、こちらを見に行ってみた次第でありました。
あらすじを大雑把に繰り返すと。
時は戦国も大詰め、豊臣秀吉の時代。全国制覇の総仕上げに、最後の敵として狙いを定められたのは、関東の雄・北条氏。東海道を下り箱根を超え、小田原城に攻め寄せる豊臣方の大軍勢。
その陣容の中、秀吉の寵臣・石田三成には、別働隊を率い、北条の領地を削り取っていく任務が与えられる。戦場での手柄のない三成に、名を挙げさせようと言う心配り。率いる軍勢は総勢二万三千、地方の城など戦うまでもなく下るほどの兵力差。
その進路にある成田氏の守る忍城は、湖上の要塞とはいえ、いかんせん兵力は僅か五百。おまけに城主はすでに降伏の約束を取り付けている有様。その城主は小田原城に出撃して不在。高齢の城代は病に伏せ、あまりの兵力さと、手回しの良すぎる降伏の段取りに、居残りの家老達は今更に和戦で内輪喧嘩を始める有様。
常人ならもういいかげんにめげてしまう、この絶望的な空気の中。眼下を埋め尽くす二万三千の敵に包囲されながら。城代の息子・成田長親は、敵味方誰もが仰天するとんでもないことを言い出す。
戦う、と言い出したのだ。
百姓からまで、のぼう様、と呼ばれる長親は、知略もなく武勇もなく、そもそも運動もできないが、なぜか人には慕われる、茫洋とした不思議な男。その男の突然の奮起に、絶望に支配されていた忍城内は俄然に奮い立つ。寄せ手の三成もまた、待ち望んでいた戦いに、いつかやり遂げようと思っていた戦術をとうとう実地に行える機会が巡ってきたことに奮い立つ。
個性豊かなそれぞれの軍勢を巻き込み、始まる忍城攻略戦。兵力差は圧倒的、豊臣方の寄せ手にとって、つまづくほどでもない小石のはずだった。
しかし、人は小石につまづくものだ。そしてそれが、命に関わる事さえある。石田三成と言う男の、人生をつまづかせた小石。成田長親との戦いが今始まる。
てな感じの口上なんですが。上映時間は二時間半弱と、長い映画の多い昨今でも、時間だけ聞くとかなりの長丁場。とはいえ実際見ていると(原作を読んでいたから、と言うのはもちろんありますが)、非常にテンポよく話が進み、長さを感じさせない作りになっています。
パンフを読んで初めて知ったんですが、もともと脚本が先にあり、それを映画化するにあたって、必要があって小説版を出版したのが「のぼうの城」とのこと。そんなわけで、小説版と映画版との噛み合い具合はかなり小気味良く。小説で印象的だった台詞が、非常に一字一句そのままに役者の台詞となっているのは、気持ちのいいものがあります。
合戦のシーンや水攻めのシーンに、サービスと言うかやりすぎ感というか、ディザスター戦国ムービーみたいな雰囲気は若干ありますが、リアルな真実よりもリアルな娯楽ですよ、花も実もある嘘八百ですよ、と言うマインドは素直に楽しめて良いものだと思います。雑賀スナイパーカスタムとかもうね。
配役陣では若干の重さ軽さはありますが、やはりのぼう様を、なんていうか、怪演したと言っていい野村萬斎に寄るところは大きいんじゃないか、と思います。小説における、ぬりかべめいた描写からすると、ちょっとかっこよすぎな感はあると思いますが。
序盤の農村のシーンで見せる、ほんとに大丈夫なのかこの人、と言う感じのずれっぷりから、戦いを宣言するシーンの、あまりに稚気じみた覇気を垣間見せる叫び、中盤以降に見せるどこか余裕めいた、計算めいた表情、そして終盤ののうのうたる小憎らしさまで、ともすると顔芸にまでなってしまうような、のぼう様の振り幅の振り切れた感じをパワフルに見せてくれておりました。
真面目に考えるとやりすぎなんじゃないかこれ、と言う感じもするんですが、元々ののぼう様が、まあ確かにいかにもやりそうな感じだなあ。と、妙に納得する次第。
原作でも不思議な爽快感を覚えたラストシーンから、エンディングロールでの演出に繋げるのも実に素直で。
これは劇場で見て正解だったな、と思える。血なまぐさい戦国ものでありながら、なにかしらの清々しい後味の残る。いい映画でありました。
ヒットしているようなので、かなり長くやりそうな気はしますけども。ご興味の有る方はぜひぜひです。
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