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2013.01.03

青春サイバーアクション漫才ハードボイルドコメディな転校生(※書名)(☆☆☆)

青春サイバーアクション漫才ハードボイルドコメディな転校生 (スマッシュ文庫)

 メタルR、鋼屋りん。無敵の力を持つ少女。機械の肉体と鋼鉄の怪力を与えられた彼女は、自らを生み出した組織に背き、たったひとりの戦いを続けていた。
 勝利の手掛かりはあった。自らに秘められた真の力を解き放つこと。その『鍵』となる存在を捜すこと。
 身を隠すため、鍵を捜すために潜り込んだごく普通の学校で、彼女はついに鍵となる存在に巡り会う。それは何の変哲もない、ごく普通の少年だった。

 よくある話、そう聞こえる物語は、ここいらからおかしくなりはじめる。
 その少年、南田是也はお笑い芸人を志しており、その為に相方を捜し求めていたのだ。

 事情様々、噛み合ったり噛み合わなかったり。かくして悪の組織と戦うサイボーグ少女と、お笑い芸人を目指す少年は、それぞれの事情からお笑いコンビを結成する事になる。手段どころか目的さえもかなり一致しない二人の前に、しかし唐突に切られる初舞台の期限。
 果たして是也とりんはコンビとして舞台を飾る事ができるのか。そして謎の組織が放つ刺客、りんと是也の戦いや如何に--。

 というわけで、評判で気になり場の勢いに押されて買ってきました略称青サバ、正式な題名は「青春サイバーアクション漫才ハードボイルドコメディな転校生」、読了致しました。長い長い長いから。
 ライトノベルはあまり読んでいるとは言えない自分ですけども、メインの題材がお笑い、と言う時点で相当な変化球であるこの作品。それもそのはず、著者のリタ・ジェイさんは現役の芸人さん。それゆえなのか、お笑いと言うものへの緻密な分析が、登場人物の一人、主人公二人の参謀役であり、論理派お笑いマニア・木下の口から事々に語られ、かつ言葉のみならず、主人公二人の行動に大きな影響を及ぼしているのが、この作品、最大の面白みだと思います。
 なにが面白いのか、なにがつまらないのか。面白いとして、それはどこがどうして面白いのか。木下の口から蕩々と流れ出る論理は、あくまでクールで、ある面では技術論でさえあり。お笑い芸人を目指す是也(と巻き込んだか巻き込まれたかのりん)の、迂闊だったり適当だったりする行動にびしばしとダメ出しをしていきます。「何が面白いのか?」を追求していくその考えは、コミュニケーション論の領域あたりまで軽やかに踏み込んでいく。

 さて、それで。今更ライトノベル論をぶつほど読み込んでいるつもりはないのですが、ライトノベルの定義として、会話中心で進んでいく、と言うのは、よく言われる事だと思います。翻ってこちらの青サバも、是也とりん、そして木下の三人の会話を中心として進んでいくのですが。しゃべりがメインテーマのこの物語からすれば、やり方として当然であって、むしろ相応しいことでもあるのです。
 地の文や登場人物の行う、面白い行動やずれた行動に対して、主に是也や、たまに木下が適宜突っ込んで話が進んでいく。それはテーマがお笑いである以上、そしてキャラクターの性格からしても当然の行動であり、つまりなんです、ぽんぽんぽんーと、会話と話が実にリズミカルに進んでいく。そしてお笑い論を論じていた主人公達が、まるでその論理で自分達の日常のなにげない会話を、自己分析しながら突き進んでいく。冒頭近くの章の南田と木下の対話に顕著ですけども、あっちこっちに無理なく突っ込みを入れながら、スムーズに話が進んでいくさまは、なんともはや独特なもの。
 そしてそれを、りんと是也達の持つ色々な根本的なズレ-- 兵器である以上、戦闘を中心に物事を捕らえているりんを。まずボケキャラとして定義して。その上で、なんとかコミュニケーションを図ろうとしていく。
 異者と理解しあおうとする、協力しあおうとする話はまさしくコミュニケーション論であり、それをお笑いと言う、噛み合わなさそうに見える線で落として纏めてくる。これがまた、非常に変わった風合いがあるのです。

 端々に出てきては良い味を出していく、そんな国松先生をはじめとする脇役陣も嫌味なく魅力的で、一気に読めて色々と思うところのある作品。あまりお笑いに詳しくない自分ではありますが、そちら方面に知識の深い人はもっと深い理解で楽しめるのではないかと思います。

 ということで、2013年最初の読書感想でありました。
 今年もぼちぼちとやっていきたいと思います。

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 土曜日はなかなか日が差さなくて寒かったですが、日曜日は朝から天気が良かったので、家で本を読んだり創作したりしてました(笑)。  と言うわけで昨日読了したリタ・ジェイ先生の小説「青春サイバーアクション漫才ハードボイルドコメディな転校生」の紹介と感想をお送りします。... [続きを読む]

受信: 2013.01.04 11:10

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