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2013.01.29

ディメンションW、夢叶いし筈の未来にて。(☆☆☆)

ディメンションW(3) (ヤングガンガンコミックススーパー) (ヤングガンガンコミックスSUPER)

ディメンションW(1) (ヤングガンガンコミックス)

ディメンションW(2) (ヤングガンガンコミックス)

 コイル。今となってはありふれた、誰でも持っている、どこにでもあるもの。
 かつて人類の生活を、このうえもなく劇的に変えたもの。


 第四次元『W』から無尽蔵のエネルギーを汲み出し、無限に電力を供給し続ける企業ニューテスラ。そして彼らから人々に供されているのが「コイル」。次元エネルギーを受け取るための端末。
 エネルギー問題からついに解放されたばかりの人類、しかしその来し方も行く末も、いいことばかりとは限らない。国家を凌ぐまでに急成長するニューテスラ、エネルギーを巡る軋轢と戦争。急激に進む社会の管理化に、置き忘れられた色々なもの。それら全てと共に現れる、テスラの管理の目を逃れた違法コイル。
 主人公は二人。コイル嫌いの頑固者、凄腕の回収屋キョーマと、コイルの開発者・百合崎博士の忘れ形見、アンドロイドのミラ。成り行きで回収屋コンビを組む恰好になった二人が立ち向かうのは、夢が叶ったはずの世界に行き交う罪と悪意。ニューテスラと違法コイルを巡り、今日もまた人々は事件を引き起こす……。

 とまあ、そんな塩梅で。最近すごい気に入っている漫画のシリーズなんですが、つい先日三巻が発表になったので、ことのついでにまとめて紹介を。
 会社の名前がニューテスラで、端末の名前がコイル、そしてそれがフリーエネルギーを取り出したり使ったりしてる、と言う時点で、かなりニヤニヤしてしまうこの作品。
 お察しの通りの近未来SFなんですが。好きなところは世界のあれこれが、実に堅実に構築されている作品です。ただ単に詳細が細かい、と言うだけではなく、「もしフリーエネルギーが手に入った未来が来たら、人間とか社会とかどうなってしまうのか」と言う部分を(物語的に便利な部分、というかお話的な部分を残しながらも)、きっちり考えて構築してある、少なくともそう感じさせてくれるあたりが、非常にいいなあ、と思うわけです。

 決して物語の都合に合わせて、設定が増えたり変わったりするでもなく、かといって、ただ延々と設定を並べられているでもない(巻末のおまけ資料なんかは、でもそういうの大好きです。ニューテスラからコイルを借りる(借りるんですよね)時の料金体系とか)ところの、バランスの取り方がいい塩梅であるなあ、と。

 にもかかわらず、この作品の眼目はアクション。それも主人公のキョーマが「コイル嫌い」と言う縛りをかけているところが、バトルに重みを出しています。相手はコイルを-- それも大抵は、リミッターが外れた違法コイルを使った強力な武器を-- 繰り出して来るにもかかわらず。それを受けて立つキョーマは体一つ。手裏剣と言うか針と言うか、金属の串だけを武器にして、体術一つで立ち向かうわけで、そこに自らに縛りを設けて戦う、ひねりと恰好良さが見えてきます。

 キャラクターの造形も、ストレートにちょっとひねりを入れていて面白く。プライドが高く、無愛想で馴れ合わないけども。決して無情と言うわけではないし、どこか挫折を抱えているキョーマに対し、もう一人の主人公のミラが、正当派のアンドロイドと言うのかなんなのか、まっとうなヒロイン属性を備えた健気なキャラクター。
 この二人が「ロボットのくせに」「ロボットって言わないでください!」的な掛け合いをしているのを見ているだけでも楽しいわけで(キョーマがあくまでもミラをぞんざいに扱っているところなんかも)。
 脇役陣の魅力も見逃してはいけないところ、迫力の元締め役マリー、チンピラとしか見えないが天才技術者のコオロギ。一癖じゃきかない警部役、怪しげな好青年アルベルトと、それぞれに個性的なルックスと性格。特にコオロギの外見はかなりのもの。相当な不安感を誘ういいキャラクターです。

 制約の上で成り立つ、そんなフォーマットの自由さを生かし、最新刊の3巻ではなんと密室殺人ものを扱っていたりもしています、このシリーズ。原作がある程度溜まったらアニメ化されるんじゃないかな、と言う期待も込めまして。これからもちょぼちょぼと、楽しみに読んでいきたい作品であります。

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