御言葉頂戴:英国王のスピーチ(☆☆☆)
リンク: 映画『英国王のスピーチ』(原題:King's speech)公式サイト 全国大ヒット上映中!.
ちょっと前にやっていて録画していた映画、英国王のスピーチ。
ほんとは劇場で見たかったんですが、予定が合わずに見逃してしまい、惜しい事をした、とずっと思っていた作品です。やっとじっくり見られて嬉しかったので、ちょっとだけ紹介と感想をば。
のちの英国王ジョージ六世が、まだアルバート王子だったころ。内向的なアルバートには悩みがありました。それは人前でうまくしゃべれないこと。ひどいどもり症だったのです。
演説のたびにひどくしくじり、父・ジョージ五世には厳しく叱責されて落ち込むものの。しっかり者のエリザベス妃や可愛い娘達(※ちなみに姉の方、のちのエリザベス二世女王陛下)に支えられ、なんとかかんとか日々の務めをこなしていました。
それに彼には兄のデイビッドがいます。堂々として社交好きのデイビッドが、父の後を継いでイギリス王になるはず。民への言葉こそ王の最大の務め、兄ならそれを堂々と果たしてくれるはず、そう思っていたのですが……。
どうにも自信喪失の夫を見かねたエリザベスは、役に立たない御用医師にしびれを切らし、世間で噂の言語療法士ローグに治療を依頼する事に。どうせ無理だよ、と、どうにも気の乗らないアルバートと会ったローグは、治療は自分流で行う、自分のオフィスで行う。相手が王子でも決して譲らない、と言う、これまた、なんというか、硬骨派の変人だったのです。頑固な平民と、これまた頑固な王子。いがみあいから始まったカウンセリングは、しかしいままでにない確実な効果を上げ始めていました。
角突きあわせ、怒鳴りあい、時には飲み交わしながら。身分や立場の差を乗り越えて、徐々に信頼を築いていく男二人の頑固者。しかし事態はとんでもない方向へと転がりつつありました。ジョージ五世の死、そしてエドワード八世となったデイビッドが選んでしまった、「王冠を捨てたロマンス」。忍び寄るヒトラー、迫り来る戦争の足音。そして思いもかけずアルバートに転がり込む、望まぬイギリス王の王冠。
王になってしまった男の物語。困難になってしまった時代の物語。これはジョージ六世と、その友と家族の物語。
というわけで英国王のスピーチなんですが。これはまた非常に演劇的というか、舞台的な作品で。非常におもしろうございました。
さまざまな人物が登場する作品ですが、主要な登場人物はほとんど限られています。主人公であるアルバート王子(ジョージ六世)、そしてその療法士となるライオネル・ローグと、アルバートの妃エリザベス、この三人、付け加えるならアルバートの兄、エドワード八世ことデイビッド王子の四人の会話により、物語の大部分は進行していきます。
厳格な父の期待に応えたいと言う義務感、有能だがどこかふらふらしている兄デイビッドに不満を持ち、そして妻や娘達に、ごく人間的な愛情を持つアルバート王子。彼は自分に期待されているプレッシャーを非常に強く感じていて、それに答えられていないと感じて押し潰されている、なんていうかすごく「いい人」です。
対するライオネル・ローグは、劇中でオーディションを受けているシーンがある通り、本当は役者になりたい(ここでオーディションをしているのが、兄の後を襲って王となったヨーク公リチャード三世の役、と言うのが、なんだかちょっと意味深)と言う願望を持ちながら、高齢のこともあり挫折を抱えている、どこか屈折、と言うよりも、権威や社会のあるべきものから、一歩引いた態度を取りがちな頑固者。それでも家族に気をつかい、息子達にかまおうとする彼もまた、一個の人物です(逆に息子に気を使われているのが、なんともありそうな感じでおかしい)。
そしてヘレナ・ボナム=カーター演じるところのエリザベス妃が、男二人に混じってなんともチャーミングな存在感を放っています。慎重肌の夫アルバートの尻を適切に叩き、喧嘩別れになりがちなローグとアルバートの間を適切に修復し、そしてデイビッド王子やその愛人への憤りをストレートに本人に叩き付ける。したたかで、かつしっかりしている彼女の存在が、エンジンとなったりコメディ的な役割を担ったり、とにかくストーリーを前へ前へと進めている原動力となっている、と思います。
いかにもイギリス映画らしく、演劇風味の強い作品。劇場で見てみたかった感もありましたが、楽しく見させて頂きましたー。というわけて、テレビ見てました、的なお話でありました。
……ちょっと調べてみてびっくりしたのは、ローグ役のジェフリー・ラッシュの声の出現が意外に多い事。「ガフールの伝説」のエルジリブはなんとなく判りますけど、「グリーンランタン」のトレ・マーって一体どうしてまた。みたいな。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 繁栄極まりし、そのまた果てに:ワンダーウーマン1984(☆☆)(2021.01.03)
- 『足跡』に至る、足跡の物語:ファースト・マン(2019.02.17)
- アクアマン:海陸を繋ぐ豪傑王の矜恃(☆☆☆)(2019.02.11)
- アントマン&ワスプ、走って跳んで、拡大縮小大作戦!(☆☆☆)(2018.08.31)
- 友よ一緒にジャスティスリーグ、そして明日のジャスティスリーグ!(☆☆☆☆)(2017.11.23)
コメント