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2013.06.14

琅邪の鬼、中国怪異或いは不可能犯罪譚(☆☆☆)

琅邪の鬼 (講談社文庫)

 あらなんかずいぶんキュートな雰囲気に…… と思ったら、つけものおばさんの根さん(※表紙右下)をメインビジュアルに持ってくるあたり、なかなか油断させてくれない感じ。
 以前にも一度ご紹介しましたが、最近、文庫化されたと言う事で。大好きな作品なので、もう一度ご紹介をしたいと思う次第。
 琅邪の鬼。古代中国を舞台にした不可能犯罪ミステリと言う、類例のあまりにもなさそうな作品シリーズの第一巻です。

 時は中国古代。兵馬俑で名高い、中国史最初の皇帝・始皇帝の時代。
 西の辺境にある秦の王は代々力を蓄え、ついに一代にして他の列強六国を討ち滅ぼして、史上初めて中国全土の統一を果たしました。
 この史上初の統一王朝が、始皇帝の統一後わずか15年にして滅んだこと。そのあとに成立した漢王朝が、いろいろありつつ都合四百年を超える命脈を保った(そのあと有名な三国志の時代になった)ことを、後の世の僕達は知っているわけですが。この日この時代を生きている人々にとって、始皇帝とその法は絶対であり、秦とその法は永遠であると思われていたのです。
 地上の人として頂点を極めた始皇帝は、次にその限界をも超えようとしていました。豪壮な墓を築く一方で、永遠の命を求めたのです。はるか東海の果てにあると言う蓬莱の島、そこにあると言う不老不死の法。その入手を始皇帝に命ぜられたのが、仙人とも目される博識不遜の老人、徐福でした。

 かくして始皇帝から絶対的な親任を得た徐福は、東海を望む琅邪の街に拠点を築き、造船を進め医療の研究を進める事となりました。不老不死と言うプロジェクト達成のため、琅邪の街は税の免除といった大幅な特権を認められ、徐福の研究所が人々の治療を(研究目的を兼ねて)引き受ける、と発表したことから。斉のはずれの港町には、途方もない人々が雪崩れ込んでしまいます。
 突然の人口の急増に、求盗(警察)も大わらわ。次々と引き起こされる怪異な事件に、街を愛する腕利きの求盗・希仁は、たびたびその奥の手を繰り出す羽目になってしまいます。それは、徐福塾の面々の-- さまざまな異能を持つ頭脳集団の力を借りること。

 かくて、急激に拡大する琅邪の街を舞台に。陸続して発生する、人の力が原因とは到底思えぬ怪事件。
 煙と消えた秘宝、花嫁の失踪。自分の足で走り去る死体。消滅する屋敷。占い、医術、剣術、体術、果ては霊媒から房中術まで、研ぎ澄まされた特化能力を持つ徐福門下の異才達が取り組む事になります。
 そしてその結末に到達するに至り、まるで起こりようもない、と思われていたあらゆる事象に、予想もしない方向から解決の光が当たる事となるのです……。

 時代ものとしても珍しく、ミステリとして見ればほとんど例がない時代を背景に取り、科学と迷信、儀礼が未分化な社会の中で、合理的な精神の持ち主達が、不可解な事件のロジックに挑んでいく、と言うように、探偵チームの面白さに、歴史ものの分厚さを豪腕で押し込んでくるこちらの作品。
 シリーズの続刊は続いており、中には同じ時代でありながらも、ミステリではない純然たる歴史小説も混じっている、と言う、構成も面白いこちらのシリーズ。
 入手しやすい今がお勧めのしどきだと思いますので、ぜひぜひ。

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