マーベルズ、男は驚異を撮りつづけた(☆☆☆)
まず、絵がすごい。
アメコミのつねとして(そうでないこともありますが)中身までフルカラーなのは、まあいいとして。
この表紙に登場しているスパイダーマン。まるで写真でフィギュアを撮っているかのようなリアルなライティング。光と影の陰影が見事な一枚絵。なんですが。
中身のコマも、全部この絵のクオリティです。モデルを実際に写真に撮り、その写真をもとにして絵を描く、と言う、聞くだに手間のかかる方法で描画している名匠アレックス・ロスが、全ページを担当した、と言う代物。表紙のスパイダーマンのみならず、作中登場するヒーロー達、キャプテンアメリカ、アイアンマン、X-MEN、ファンタスティックフォー達、さらには彼らと戦う悪漢達、そのへんの人に至るまで、このクオリティで描かれているのです。
それなら物語は? 主人公はなんと言うヒーローなのでしょうか。
主人公の名は、フィル・シェルダン。ヒーローでもなければ、悪人でもない。超能力を持った一般人でもありません。彼はカメラマンでした。ひょんなことからヒーロー達に魅せられ、彼らの写真を撮り続ける人生を送る事になった、ひとりの男。
世界最初のヒーロー・人造人間ジム・ハモンドのお披露目に、取材に訪れた彼は。様々な偶然と意志のもと、「ヒーローのいる世界」の歴史を生きていくことになります。第二次世界大戦、ようやく訪れた平和。そしてミュータントの登場をはじめとする、混乱の時代。
野心溢れる青年が、やがて家庭を持ち、己の仕事を見つめ、すべきことを見いだそうとする。ヒーロー達が空を飛び、世界を揺るがす戦いを繰り広げる傍らで。彼らとは直接触れることはなく、しかし無関係でいることもできない。
言わば、「ヒーローのいる世界」の、「市井の人々」の物語なのです。そして見上げる視線の先にあるからこその、それもアレックス・ロスの描いている。ヒーロー達の恰好良さと言ったら、もう。
物語を担当しているカート・ビュシークは、こういった、ちょっと一歩視点を引いたような作風が多く。最近新シリーズが始まった「アストロシティ」は、その流れの名作でもあります。
そんなわけで。もうこの言葉もずいぶん繰り返しましたが、アメコミ映画がすっかり定着してきた感のあるこの昨今。王道やちょっと変わった作品に混じって、こういった、しみじみと読ませてくれる作品も出版されたり再評価されたりするようになってきました。
読みたい作品、お勧めしたい作品は数々ありますが、この一冊はその中でも群を抜く。むしろアメコミに限らず、読んだ事のあるすべての本の中でも最上位級に属するお勧めの一冊なので。ぜひぜひ選んで頂ければ、と思います。
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