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2013.09.12

琅邪の街に女難の相あり:死美女の誘惑 蓮飯店あやかし事件簿(☆☆)

死美女の誘惑 蓮飯店あやかし事件簿 (講談社ノベルス)

「(前略)女性の価値は、美醜や年齢や人獣や生死では決まらない。みずみずしい精神を持っているかどうかが大事なのです」
「美醜や年齢はともかく、人獣や生死も構わないのか……」(本文p.20-p.21)

 はるかな古代、秦の始皇帝が全土を支配した時代。
 その始皇帝の命を受け。徐福とその弟子たる巫医達は東海に面する港町・琅邪に「徐福塾」を構え、医術の研究と航海の準備、そして彼ら自身の秘密の計画を推進する。人が集まりにわかに大都市となった琅邪では、奇怪な大事件が起こる事もたびたびだったが。当時の警官である求盗、熱血漢・希仁と、残虎先生ら徐福門下の巫医達は、智恵と力を合わせて、街を襲う謎を解き明かしていったのだった。
 そんな徐福と主な門下達が、みやこ咸陽を訪れ不在の徐福塾に、ひとりの男が、ふらり、と現れる。徐福塾の巫医にして房中術の専門家、絶世の美形にして天性の女たらし、人呼んで佳人先生。だが、彼を見た者は誰も彼も悲鳴を上げ、希仁と陽武ら求盗達も駆けつける始末。何故ならば彼は、いま、ここにいるはずのない人間なのだから……。

 謎めいた帰還を果たした佳人。そして彼に呼ばれたかの如く、女にまつわる怪異が、次から次へと琅邪を襲う。蘇り鬼となり、男を求める怪女。すでに死した姿で夢に現れる幽女。恨みを晴らさんと暗躍する水狐、空を飛び、地上へと怪異を落とす鳥の化身。そして壮麗な行列で輿入れする蛇の嫁。
 いずれも女難の怪異に、あるいは自ら、あるいはうまうまと乗せられて関わる事になっていく佳人と、彼と対立しつつも、街の平和のため協力体制を引く、熱血派の希仁に記録派の陽武のふたりの求盗。そして彼らの間をとりなすのは、佳人が滞在先に選んだ宿屋兼酒場の女主人・蓮。
 琅邪一の儒者にして偏屈老人・笠遠も毎度のように巻き込みながら、足並みがそろわないながらも事件に取り組む彼ら。佳人の頭脳と、独特のその発想が解き明かす、怪異な事件の裏の驚くべき真相。そこには女にまつわる、様々な語られざるべき事情が秘められていた……。

 徐福塾にかかわる巫医達が、さまざまな事件を解き明かす。長編推理三冊、歴史小説一冊からなる、変則シリーズの最新作。今回は初の連作短編集となります。第三作で舞台が咸陽に映っている間、第一作・第二作の舞台の街でなにが起きていたか、と言うシリーズ、とも読めるでしょう。
 主人公は…… と見た瞬間に、アレ? とシリーズを読んでいた人は首をかしげるはず。美男にして房中術の達人、ある種とんでもないトラブルメーカーである佳人先生は、シリーズですでに登場している人物。しかしその間の事情を考えると、彼がいま、ここに、いるはずはないのですが……?
 とまあ、その謎には一応の回答が与えられはするのですが。ともあれ、帰ってきた佳人先生と、シリーズでおなじみの登場人物達が。街を襲うさまざまな怪異、それもことごとくが女にまつわる怪異を解き明かしていく、と言う筋立てになります。
 なにしろ冒頭にあげた通りの、佳人先生のエキセントリックなキャラクターと、それに振り回される、比較的まともな登場人物達(佳人に太刀打ちできそうな徐福塾の皆さんは、今回ずっと不在なもので……)のやりとりと、一件理解不能な怪異が、さまざまな作為と偶然、そして錯誤の果てに組み立てられたものであることが解き明かされていく。短編なだけに、事件の怪奇具合は若干大人しめではありますが、トリックの力業気味なところも含めて。歴史小説だった前作とは対照的に、ミステリ寄り、ギミック寄りな作品集、とも言えます。
 とはいえ。様々な事情の絡んだ果ての解決が、どこかもの悲しくも割り切れたものを感じるのは。古代の中国と言う、女性の公的な立場が相当に弱かったであろう時代にあって。ただひたすらすべての女性のために、男とかどうでもいい、と、割り切って活動する佳人先生の行動力のゆえなのかも知れません。

 短編集と言うところを考えると、シリーズの入り口に選ぶのも良いかもしれません。このシリーズの魅力に気付いてくれる人が、多くなることを祈りつつ。

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