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2013.10.15

跳ねた、鈍く重い響き。(★)

 人身事故が起きた、そのまさに先頭車両に座っていました。

 強さを増す雨の中、帰路に着く人を乗せ走る電車。暗がり。出し抜けの衝撃。何か、重さを備えたものに当たる音。わずかに浮いた感覚。座席ごしに体に伝わる、生の衝突の感触。
 急ブレーキ。車内へのアナウンス。総毛立つとはこのことか。寒気とともに、留まる衝撃の感触。ゲームをしていた3DSを仕舞い込む。わずかに車両が傾ぐ感触。運転席が開き、運転手さんが恐らくは降りていく。鳴ったままの踏切。わずかに首を巡らせる。電車は踏切をふさいで、そのまま止まっている。あわてて車内に視線を戻す。こちら側の世界。
 おろおろしているお年寄りに、となりの若者が席を譲っている。女の子達二人が、何語か解らない言葉でしきり話しかわしている。背広を着た同輩達が、スマートフォンを一心に弄っている。雨もなく、温度のある、壁一枚隔てた、こちらがわの世界。僕はそこにいる。背中にまだ留まる衝撃。鉄の壁一枚むこうでそれはきっと起きた。

 回線を開く。己の置かれている身上を呟く。まとまらない。何が言いたいのか、自分は。回りの人々は平然としている。あの衝撃を覚えなかったのだろうか。あるいは知っていて、なお平静を整える事ができているのだろうか。重い衝撃。あの衝撃は、命を跳ねた衝撃なのか。あの瞬間、わずかな距離と椅子と壁と雨を隔てて、見知らぬその人に僕は、その衝撃を分与された。分与されたのだ。

 回線の向こうは、見知らぬ誰かを口汚く罵り詰り、ああ私はなんてこの世で誰よりも不幸なの、と嘆く、そんなつぶやきで満ちていた。どこまでもどこまでも満ちていた。

 数十分のあと、僕と、僕たちは、その場を離れていった。否応は無かったが、しかしレールに乗って。
 鉄の壁一枚向こうにいた、見知らぬ誰かの命の無事を、意図的に祈っていた。それが本心からのものなのか。こちら側にいる後ろめたさから滲んだ、自分だけ良い子ちゃんになろうと言う精神からのものなのか、僕には解りそうにない。

 もう体から、あの衝撃の衝撃は、抜けて忘れ去られようとしている。飲んだせいかもしれないし、違う話をしようとしているせいかもしれないし、思った事を思っただけに吐き出そうとしているせいなのかも知れない。
 誰も責める気はないし、誰も責める資格はないし、鉄道会社の方は少なくとも、最善以上のことを尽くして下さったと感謝している。しています。

 でも、あんな思いは、あんな衝撃はもうごめんだ。二度とごめんだ。

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