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2013.11.19

千里千夜を見たかのごとく:百万のマルコ(☆☆☆)

百万のマルコ (創元推理文庫)

 ときは中世、ところはジェノヴァ。戦争で負けて捕虜となり、「わたし」は牢屋の中にいた。
 殺されはしないが自由もなく、外に出られる見込みもない。どこまでも続く退屈な日々の最中、風変わりな新入りがやってきた。
 自らマルコ、「百万のマルコ」と名乗るこの男。語るのは、かつて東の大帝国に仕え、大皇帝フビライの使者として世界の隅々を巡った時の、折々様々なエピソード。
 信じられないような土地に旅をしたマルコは、旅先でさまざまなトラブルに巻き込まれる。謎めいた後継者選びの儀式、賢明で知られた女王の乱心、剛力無双の姫君との腕比べ……。

 しかしマルコの話はいつだって、肝心の尻尾が尻切れ蜻蛉。はぐらかして結末を教えないマルコを前に、若い囚人達はああでもないこうでもないと頭をひねる。彼らの苦吟と惨憺と、そしてその果てにマルコが教える真相とは。かくして今日も、百万先生の獄中の冒険譚が不意の始まりを告げる。

 そんなわけで、「百万のマルコ」読了しました。みんな知っているあのマルコを主人公にした、ファンタジーひねり話な連作集です。

 ジェノヴァの牢(戦争捕虜が放り込まれている)にある日連れてこられた、ぼろを纏った老人マルコ。退屈を持て余した若い囚人達に彼が語るのは、かつてフビライ皇帝の使者として、風変わりな国々を訪れた時のエピソード。いろんな理由で危機に陥った(と云うか、危機に陥った時の話だけをしているわけですが)マルコは、そこをなんとか切り抜ける…… んですけども。
 マルコ先生が毎回ぼやかす解決を。若い囚人達、荒くれの船乗り、理屈屋の僧侶、お人好しの仕立て屋、そして皮肉屋の貴族(それに、若くない物書きの「わたし」)と云った面々が、ああでもないこうでもない、と色々アイデア出し(とマルコからのダメ出し)をしていく、と云う趣向。最後の最後にマルコが語る結論が、というところ。

 かなり長いあいだに渡って断続的に連載されていたものらしく、正直話を途中まで読んだところで、「あれ、これってこれなのかな」って思っちゃうところもあるのですが。若者達の軽妙なやりとりと、至って真面目に受け答えをしているにも関わらず、妙にすっとぼけたマルコの、味のある受け答えが魅力的。

 このマルコは、もちろんあの有名なマルコその人なのでしょうけども。このマルコが語る物語の異国は、まさしくファンタジーそのもの。それぞれのロジックで動いている異世界に旅したマルコが、そのロジックに従い危機を切り抜ける。夢かまことか、軽くも不思議な味わいの連作集であります。

 話の中では「半分の半分」と、「雲の南」がお気に入りでしょうか。特に後者はシリーズの後半だけあって、もうひとひねり、の効いた一作です。

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