つながりはじめる物語、そして現れた「味方」 :ニンジャスレイヤー「荒野の三忍」(☆☆☆)
このスタイルも三巻目ともなると、それぞれ点として描かれていた物語の前後関係や因果関係が明らかになりはじめ、物語の全貌が徐々に姿を現し始めます。ことにこの三巻で明らかとなるのは、ニンジャスレイヤーと、協力者シルバーキーの出会い。前巻「ゲイシャ危機一髪」内のエピソードで、キョートにいるはずのニンジャスレイヤーがなぜかネオサイタマに戻っており、しかもニンジャであるにも関わらず、ニンジャスレイヤーと共闘していた彼のエピソードが、ここで語られることになります。
ニンジャスレイヤーがニンジャと共闘する、と言うのは、これは物語中でも大きなターニングポイントではないかと思います。これまで、強敵を前にしてやむなく他のニンジャと共闘する、あるいはあえてニンジャを見逃す事はあっても、基本的にニンジャを殺戮対象と見なしてきたフジキドにとって、利害の一致により、他のニンジャと長期に渡って協力する事になる、と言う事態は、かつてなかった事なのですから。
書き下ろしとなる「フェル・アスリープ・イン・ザ・ムービング・コフィン」は、そんなフジキドとシルバーキーの物語。これまで明確ではなかった、「二人はどうやって、キョートからネオサイタマへと帰ってきたのか」、その顛末が語られる物語となります。
表題にもなっている、ニンジャスレイヤーとフォレスト・サワタリ、そしてジェノサイドと、それぞれ違うベクトルで不死身の三人が共闘することになる「スリー・ダーティー・ニンジャボンド」、第二部全体の序章と言える位置を占め、もうひとつの「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」とも言えそうな「ナイト・エニグマティック・ナイト」などなど。重要なエピソードにも事欠かない第三巻です。
付け加えると、相変わらずジェノサイドはかっこいいな、と……。この巻ではそれほど加筆があるわけではないと思うのですが(電子版ではあまり呼んでいない部分ではあるのですが)。そっけないながらも、ワタアメを案じているのだろう言葉は、凶暴凶悪だけれども、どこかしらかわいげのある部分を覗かせていると思うのです。基本的に関わり合いになりたくないタイプなのに、ものすごく有能な上に時々すごくいい事を言うフォレストも、妙な人間味を感じさせてくれて。彼らとニンジャスレイヤーの偶然の共闘、そしてその行く末が、なんとも趣き深く、そしてもの悲しさを感じさせてくれるのです……。
そんなわけで、この巻も面白いので。ここから読むのはさすがにきついと思いますが、ぜひ。
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