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2013.11.27

戦国乱世駆け抜けるアンドロメダ流必惚剣:王子降臨(☆☆☆)

ガガガ文庫 王子降臨(イラスト完全版)

 タイトルを見ても表紙を見ても、まったく中身が想像つかないと思うのですが。「王子降臨」と云うタイトルは、まさにそのまま。金髪碧眼、完全完美。挙措はあくまで優雅、心根はどこまでも優美、そんな絵に描いたような完璧な王子が冒険を繰り広げる物語なのですが…… 問題は、その王子が、どこからどこへ降り立ったのか、と云う事。
 王子がやってきたのは、宇宙の彼方アンドロメダ銀河。
 そして王子が降り立ったのは。戦国も乱世、織田信長が将軍義昭と熾烈な争いを繰り広げていた頃の、戦に荒廃した日本の片隅。
 もうこの時点で一体何言ってるんだ感が満載なのですが、話はここからどんどんぐいぐい加速していきます。

 圧倒的な武力のもと、領内に苛烈な年貢を強いる暴君・真壁弾正。奪われ殺され誇りを奪われ、土地は荒れ草木は枯れ。農民達は、生きるも地獄、死ぬも地獄の境地に喘いでいた。
 そんな苛烈な土地の中で、己一人の力で生き抜いてきた少年・鳶丸は、あるときだしぬけに、仰臥する貴人の姿を見つけてしまう。それが彼と、自らそう名乗る謎の貴人・王子との出会いだった。

 王子は美しかった。果てしなく底知れず美しかった。姿も動作も戦う姿も、そしてその心さえも。あまりに魅力的で、あまりに危なっかしい王子の振る舞いに目を離せず、いや離す事ができず。鳶丸は世間を知らぬ王子の目的のため、姫を探す行く道の供を努める事になる。
 彼らの行く先々で王子が、その美しさが惹起する、奇跡としか思えないような様々な出来事、そして事件。王子を巡り、あるいは争い、あるいは集う様々な人々、心が死んだ村人達、豪放な破戒僧。美しき忍術使い率いる盗賊団。そして暴君・真壁弾正、彼に仕える魔剣士・綺羅星一羽と、剛力無双の巨大な鬼たち。そしてその行く道に見え隠れする、王子の求める姫の姿。
 優しいがゆえに美しく、美しいがゆえに強い。はたして王子と姫の、そして取り巻く鳶丸達の、その道行きに待ち受けるのはいかなる結末か。

 なんてことを申しますが、非常にその、なんだこれかっこいい、と云う印象と、かっこいいけどおかしいぞこれ! を、交互に気持ちがラリーする、頭を振り回される娯楽の一品です。
 舞台は乾ききった、あるいは澱みに満ちた、重苦しい戦国の農民の世界。そこにいきなりやってきた王子の姿は、作中の登場人物の基準からも明らかに浮いていて、そして、それもあり、彼らは王子の存在そのものに引き込まれてゆく事になります。

 王子のいっそ迷いなく突き抜けた善良さ。そして農民を苦しめる悪漢(主に武士)達の、こちらもこちらで、割り切って突き抜けた残虐さ悪漢ぶりの際立った描写ぶり。
 しかし、そのように割り切れている、ように見えるものもあれば、その間にあって惑うものもある。善と悪、強さと弱さの両方を抱えて生きる、王子とともに戦う事になる仲間達の、人としてあたりまえの心の揺れは、またそれも強く心に響くものがあります。わけても、もっとも王子の近くにおり、彼に触れていることで、その善良さに強く引かれ、かつ強い劣等感をも抱く鳶丸の惑う姿には強い印象を受けるのですが、ちょっと夜戦対応型ヒロインすぎませんか彼。最初女の子かと思った。

 美しいものは美しく、悪しきものは悪く。そしてその中で戸惑う者は半端ではなく戸惑う。時に思い切って描写は時に無惨残虐でもあり。そしてそれがまた容赦なく思い切っているからこそ、目を見張るほどの暴走を見せる後半から結びの展開には、読む手にも力が入ると思うのです。

 なんていうかその、よくこんなこと思いついてしかも最後まで書ききっちゃったな、と、頭振って感歎してしまうこの一作。PBMの経験の方にたとえ話をするのなら、エルスウェアのマスターで例えるなら、山城マスターの作風と獨伝把マスターの作風が相互に来て、最後に両方入り交じってやってくる、みたいな感じになるでしょうか。

 amazonを見ると、すでに続刊も刊行されているとのことで。なんだかまた気になる作品が増えてしまった昨今です。

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