風景の記憶が彷徨い出るとき:冬の蝶(☆☆☆)
そんな感じで、「ゴミソの鐵次」シリーズに登場した脇役・百夜を主人公に据えて展開する、新シリーズと言うか別ラインとなるこちらの作品。百夜が江戸に居着くまでの序章には、ちょっとだけ鐵次や孫太郎など、鐵次シリーズの登場人物も出てきます。
時代もの、と言うと、チャンバラものなのおっさんばっかりなの、とわくわくする向きも多いと思いますが、百夜と書いて、ももよ、と読む、この主人公が、これまた思い切ってラノベ寄りな感じなのが、ちょっと面白いところ。
外見は15、6の盲目の美少女、霊媒師となるために断髪の異相をしているのですが、視力と、それに言葉を補うために、偶然出会った侍の亡霊を宿している、と言う仕掛けなわけで。
そういう事情で、すっかり男言葉武家言葉で、喋り脅し鼻で笑う百夜と、ひょんなことから百夜に仕事を持ち込んで以来、なんだかんだで関わり合いになる、お調子者で力の抜けた性格の手代・佐吉と軽妙な会話も、面白みのひとつなのであります。
話それぞれのストーリーも、「付喪神が絡む」と言う、縛りのようなものを持たせた短編集ながら、あるいはもの悲しく、あるいはほのぼのとした雰囲気で終わるものなど、それぞれにバラエティ豊か。
街の過去、過ぎ去った風景、あるいは人の残したなにかをトリガーに現出する付喪神に対して。その正体、出現の理由、そして、この想いをどうすればいいのか、と言う解決の方法までもを解き明かしていく筋運びは、非常に魅力的。短編のミステリの連作を読んでいる感覚であります。
どれも魅力的な作品なんですが、一番を上げるなら「冬の蝶」と「漆黒の飛礫」のいずれかでしょうか。
真冬の真夜中にどこからか蝶が現れて消えた、吉凶を問われ調べた事情が、百年前の秘密につながっていく「冬の蝶」。目に見えぬ何者かの放つ礫で、練馬の牛馬がつぎつぎと傷つけられる、と言う謎が、とんでもない犯人の正体へと繋がる「漆黒の飛礫」。
正体と事情が分かったあと、祓えば終わりだが、しかし。と、付喪神に残る思いを果たさせようとする百夜の行動が、ミステリとはまた趣きの違う解決があり余韻がある。
連載分もずいぶんあり、続刊も期待できそうで。楽しみなシリーズであります。
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