苺コンベア。(☆)
この話を書くのも何度目か、と言う気がしますが、クリスマスが近付くといつも思い出すのは。学生時代、工場での一日限りのバイトのことでした。
クリスマスケーキに使う苺が、傷んでいないか仕分ける、と言うバイト。十数人の学生を投入し、徹夜でひたすら、ベルトコンベアで運ばれてくる苺を睨み続ける。そんな作業です。
傷んでいるもの、形が壊れているものは、クリスマスケーキのトップを飾る栄誉を得る事はできず。ただひたすら、苺を仕分ける。この苺はこのあと工場で、ケーキのクリームのてっぺんに、その上にちょこんと載るのであろう。そのケーキは箱に詰められ小分けにされて、ひとつの木に成った苺の実は、あるいは北へ、ひとつは南へと散っていくのであろう。
あるいは箱を開けた時、見られる事になるのは子供達の笑顔であろうか。恋人達の期待の顔であろうか。あるいはは箱の外の失望と後悔に押され、、開けられる事なくその夜を越すのかも知れないし、翌日になってやや値が下がったところを狙われて買われていくのかも知れない。この転がり行く苺ひとつひとつが辿る運命がどうなるか、工場の僕たちには知るよすがもないのだ。
なんてことを延々と頭の中で考えて、気分はもうモダンタイムズでチャップリンになってしまうくらいに。一晩中まみれた甘く濃密な苺の香りは、むしろ臭いは、ほとんど蒸すように寒空の工場の中に充満していたのでした。
一日限りの臨時働きで、その日払いで即解散。明け方の、ひさびさに苺の臭いのしない、暁の空気の中。社員さんの「次は餅の時お願いね!」と言う、今でも冗談だと思っている言葉を背に、クリスマスの夜明けを帰っていった朝の事を。
軽く数十年は経ちますが、今でもクリスマスの、正確にはクリスマス前後の思い出は、その日の工場の出来事だったりするわけです。
それから一週間ばかり、苺の臭いを書くだけで気持ちが悪くなり、ほんと大変でした……。
一日働いただけで僕はそのざまだったわけですから。ケーキと言えども、人の労苦の詰まっているものなのだ。と。おそろかに食べてはいけんものであるなあ。と、考えを新たにする次第です。
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