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2015.01.25

凝縮の青銅器。(☆)

リンク: 双羊尊|根津美術館.

 実は青銅器が好きなのです。それも殷の青銅器が好きなのです。
 青銅器ならやっぱり殷ですよ! 西周とか僕はやっぱりちょっとね、とか、えらい人に聞かれてかんかんに怒られて正座して謝る羽目になりそうなこと言いかねないくらいには、殷の青銅器は好きなのですよ。
 で、いつものように烏羽さんからお誘い頂きまして。南青山は根津美術館に、ものすごく珍しい青銅器、双羊尊がやってきてる、と言うので。病み上がりの紅崎さんまで連れ出して、根津美術館に出掛けてきたわけなんですが。
 実はこのエントリ、双洋尊について書こうと思ったら、それ以前に青銅器がなぜ好きなのかって話でえらく長くなったので、そっちのほうを今日はメインに。

 解説によれば、そも「尊」とは、酒を入れるのに使われた器のこと。
 二匹の羊をかたどった、正確には羊の前半分だけをかたどって背中合わせにくっつけた恰好の青銅器、すなわち尊なので、双羊尊、と言うわけです。もっとも僕は最初すっかり勘違いしていて、二個の青銅器が阿吽みたいにワンセットになっていて、それで双羊尊、と言うのだと思っていたのですが。

 さて、通説で中国で最古から二番目の王朝である殷王朝は、青銅器文明が花開き、独特の宗教文化を持った宗教国家でありました。
 漢字のルーツと言われている甲骨文字は、この殷王朝の時代に盛んに使われていたものであり、その「甲骨文字」と言う名前そのものが、占いに使われた獣骨や、亀の甲羅に刻まれていたことから来ています。殷時代の人々にとって祭祀は日常かつ重要なものであり、当時の最新テクノロジーの産物だった青銅器を、その祭祀の道具として盛んに用いられました。
 かつまた、殷は飲酒の盛んな文明でもあったようです。酒は神に捧げる重要な供物であり、儀式にも不可欠なものでした。青銅器として、多種多彩の様々な酒器が遺されていることから、それは推測することができます。もちろん神に捧げた酒類は、最後には人間のもとへ流れたのでしょう。後世の歴史家から「殷は酒飲みすぎて滅んだ」とか言われちゃう所以でもあります。
 暴君の代名詞となった、殷の最後の王、紂王の事績として、「酒池肉林」と言う言葉があることを考えれば、まあ殷の人間はたいがい酔っぱらいだと思われたのでしょう。

 青銅器、宗教国家、酒。そして殷は奴隷制社会でもありました。殷は奴隷狩り、人間狩りをしばしば行い、労働力としての奴隷を異民族征伐によって確保していました。先の甲骨文字でも、占いの吉凶を求める中に「羌族を多数捕まえられるか」と、人間狩りの成果を神に問うたものが残っているそうです。
 捕まえられた人々の労働は、多岐にわたったはずです。単純なもの、複雑なもの、専門技術を擁するもの。他ならぬ青銅器の数々も、そういった奴隷労働者が実際の作り手だった、と考えられています。

 青銅器鋳造と言う最新のテクノロジーを持ち、それでいながら奴隷と言う身分だった、名を残せなかった名匠たち。彼らの身分がいかなるもので、暮らしぶりがどのようなものだったのか。過酷だったのか、それなりに優遇されていたのか、それは人により時代によりで、ひとくちにまとめて言うのも乱暴だろうと思うのですが。
 ただ、殷の青銅器の、空白の存在を許さないかのような、言ってしまえば偏執狂的な「描き込み」、どこまでも精緻で鋭敏で、様々な意味とモチーフが凝縮されて存在するそのさまは。作ることがその日を生き抜くことのすべてだっただろう誰かの。
 彼らの生の成果物を、傲慢にも鑑賞しようとする、日々を油断して生きる後の世の我々を。睨み据え、威圧し、圧迫するかのような。背骨に重く静かに堪える緊張感を、この青銅器たちからは感じてしまうのです。

「つまり、青銅器を見て、ぱっと見なんか描き込みが細かかったら、『これは殷の時代の青銅器で、酒を入れるのに使われて、なんらかの宗教的儀式に使われてた』って言えばいいんです。だいたい七割くらいはそれであってますから」
「いやさ、さっきから見てるとほんとにそんな感じですけどね!」

 みたいな、大変失礼な感想を申し述べつつなんですけども。
 そんなわけで、青銅器大好きなのです。3Dプリンタで好きなもの作ってやるって言われたら、たぶん殷の青銅器って堪えてしこたま怒られると思います。
 双羊尊の話は、またちょっと日を改めて。

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コメント

 やぁどうも。
 自分もこの時代の青銅器大好きです。

 酒器、祭器もいいですが、飛び抜けて好きなのが斧。
 兵器ではなく祭器として用いられた、口に出すのも憚れる用途に用いられたいわゆる銅鉞。アレが大好きなんですよ。

 たぶん諸星作品で描かれていたのが原体験だと思います。
 その禍々しきデザインに痺れたものの、用途とか知名度とか複数の理由から「銅鉞が好き」と口に出す機会は初めてかも。

 そういやこの辺の青銅器ですが、古の中南米文化とデザインに共通点があるように感じる事があります。DNAに刻まれた何かの所為なんでしょうかね。

投稿: サンドマン | 2015.01.28 00:02

 銅鉞、不勉強なもので画像検索してピンときました。これでしたか!なるほど理解。

 おっしゃられた南米も含め確かに共通点があるように思いますが、人間の認識はどうもやはり「顔」のようなものに対する執着があるようですね。
 火星に顔面があるとか心霊写真とかのシミュラクラに相通じるものがあるのかもしれません。まったく別の文脈で話していたことですが、人間は、人間性的ななんかヤレソレを、まったく無関係の他のブツに無理やりにでも見出そうとするものなのでしょうね。

 人間が人間的だと感じるものは、意志が、あるいは偏見が認識を歪めた結果でしかないのかもしれません。
 人間が人間を人間と認識するのも、そういう積極的な誤解の結果なのだと思えば。今日の国際的あんなことやこんなことも、むべなるかなと思うべきなのかも知れませんね……。

投稿: sn@散財 | 2015.01.31 19:32

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