生命、そして生命のようなもの:新しいウィルス入門(☆☆☆)
NHKでやっていた「生命大躍進」を見て、具体的には光合成するウミウシの話を見て。あっこういう話、最近読んだ本に書いてあった! と思った訳なのですが。その最近読んだ本、と言うのがこちら。ウィルス、とはいえコンピューターウィルスではなく、物理なウィルスのお話です。
本の冒頭、話の枕は、巨大なウィルスが発見された、と言う話からはじまります。通常であれば、電子顕微鏡でなければ確認できないくらいのサイズであるはずのウィルス。ところがイギリスで発見されたそのウィルスは、あまりにも大きすぎるがためにバクテリアと誤認され、長らくウィルスであることさえ気付かれませんでした。
なにしろそのウィルスは、世界最小のバクテリアよりも大きく、所持している遺伝子情報においても、同種のバクテリアを凌いでいたのです。そしてさらには、もっともっと巨大な、下手な細胞よりも…… ウィルスの寄生先である細胞よりも…… はるかに大きく、多量の情報を持ったウィルスさえ発見され、ミミウィルス、メガウィルスと区分されるに至りました。
さてでは、このウィルスは、生命なのか、そうではないのか? そもそも、「限りなく生命に近い物質」と定義されたウィルスとは、どういったものであり、どういう構造をしているのか。ウィルスの種類、生活環、そして細胞に「取り込まれ」、内側から浸食して増殖する、そのシステムに至るまでの、ウィルスの基礎知識が、特に高名な…… 病原体として高名な…… ウィルスの紹介とともに、本の前半で語られます。
それを踏まえて後半で語られるのは、レトロウィルスと言う種類のウィルスが持つシステムである逆転写、即ち宿主となった細胞に、自分自身のDNAを転写するシステムと、それが生物の進化、あるいは変異の発生について果たした役割を解き明かしていきます。近年になって解読されたヒトゲノム、すなわち人間のDNAのうち、かなりの、思った以上の部分が、逆転写によって追加されたウィルスのDNAであるらしい、と言う事実。そしてそれによる変異が、特にほ乳類の発達にとって、大きな役割を果たしてきた、と言う例を引いて、ウィルスが生物の変異について果たしてきた役割を解き明かしていきます。
ウィルス進化論、とまで言うほど、ウィルス一辺倒と言うわけでもなく、ウィルスを通して生命を見直し、生命の、もしくは人間の側からウィルスを再評価するこちらの本。ちょっと関連書籍を固め読みしたくなってくる一冊です。
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