過去をゼロへと、そして一歩を:アントマン(☆☆☆☆)
かつて、誰も知らないヒーローがいた。
キャプテン・アメリカが海に消えたのち、トニー・スタークがアイアンマンとなる前。冷戦下の世界、誰にも知られず人々を守り続けた、ひとりのヒーローがいたのだ。
彼の名はハンク・ピム、もうひとつの名はアントマン。
人知れぬままに戦い続け、そして世界から身を引いてはや数十年。歴史の闇に消えたアントマンは、ふたたび、そして初めて人々の前に姿を現した。誰も知らない未来の危機から、何も知らない人々を守るため。
だが、マスクの下にある顔はハンクではない。自在に縮小し、アリの大群を自由に操る、脅威のアントマンの力を託されたのは、出獄し娘のため更正を誓った、凄腕の泥棒・スコットだったのだ。
ミッションが不可能なら前提を書き換えればいい。状況か困難なら状況を変えればいい。彼らは挑む、ただ家族のため、娘のため、そして自分の人生を取り戻すために。
ハンク・ピムとスコット・ラング、世にも奇妙なヒーローの師弟となった、ふたりのアントマン。不可能を覆す小さな大作戦が、いま開幕する!
そんなこんなで、ACBDさんのアメ懇に参加して見て参りましたアントマン。
マーヴルの近年の映画はもちろんアメコミヒーローものなのですが。その中で、いろいろなジャンルに挑戦している感がすごくあります。
原作コミック通りのキャラクター達が出てきて、原作のコスチュームを着て戦う、と言う、基本線と言うかお約束と言うか、そこのラインをきっちり守った上で。さらにその上で、ちがったジャンルの映画の風味を取り込んでいる、と言えばいいんですかね。
そもそもの「アイアンマン」が、技術者好みの開発あるあるみたいな風情があったのは、これは狙っていたかどうかはともかくとして。
「ハルク」は優しく悲しいモンスター映画、「キャプテンアメリカ」は戦争映画。続編の「ウィンターソルジャー」はスパイスリラーの風合いがありました。そもそもの舞台が異世界な「ソー」や「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー」が、ファンタジーでありスペースオペラであることは、見た目からしてもうそのまんまです。
さて、それではこの「アントマン」はどうなのかと言えば、一言で言えば怪盗もの。
世間にも政府にも話せない極秘の任務。度胸と機転に溢れた怪盗が、仲間達のバックアップのもと、次々と発生するハプニングに対処しながら、鮮やかに密やかにミッションを達成する、と言う筋書き。
なるほどこのストーリー運びだからこそ、主人公はスコット・ラング、更正を誓った元犯罪者のスコット・ラングでなければならないし、なによりヒーローはアントマンでなければならない。縮小することで誰にも気付かれず行動出来る、隠密ヒーローでなくてはならなかったわけです。いやなるほど、これは確かにそうだ。
そして怪盗ものであるからなのか、全体の雰囲気は、洒脱とまではいいませんが、いい意味で力が抜けておりとても軽妙。そもそもが、映画の冒頭。マーヴルのロゴが出てきた時点で、「あ、こういう映画なんだ」って言う雰囲気が感じられるはず。
ぐいぐい押して来て、そしてちょっと間が抜けてもいる会話劇(仲間のひとりルイスの超がつくほどの長台詞がとんだ聞き所)、解っていてもやっぱり面白い、そうなるんだと思ったらやっぱりそうなった、と言う感じのベタな冗談の数々。
そしてアントマンが巻き込まれる、小さいがゆえのハプニング。本人にとってはとんでもない大ピンチなのに、周囲の目からすると、もう気がつかないくらいなんでもないことだったりする。その視点の切り替えを、ちょいちょい挟んでくることで、ギャップをいちいちい意識させてくれるのが、なんとも楽しいのです。
書き切れなくて長くなりますが、娘のキャシーをなによりも愛するスコットと、チームの一員でありそして一人娘でもあるホープとの軋轢に悩むハンク・ピム、二組の親子の相似と相違、そして対立。ところどころに顔を出す、「アベンジャーズ」シリーズの世界とのつながりと、見どころはどこも一杯です。
マーヴルのシリーズ映画も、だいぶん数が増えてきました。もうどこから入ったらいいか解らない、中途参加できない、と言う向きも、もちろんあるかと思います。
ヒーロー映画としては、いささか変化球気味のきらいはあるかと思いますが、こちらのアントマン。マーヴルシリーズで最初に見る一本の候補に加えるに、最有力の一本だと思います。
アントマンに、あるいはシリーズに。ご興味のある方はぜひ。
…………最後にひとつだけご注意を。虫が苦手な方は、ちょっと気を付けたほうがいいです。
なにせアントマンと言うくらいで、大きな(正確には主人公が小さくなるんですが)アリが、かなりいっぱいでてきますので。そこはご注意を。
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