春画展、美の歴史の裏側で。(☆)
かわいい都電荒川線。高戸橋は近くていいですね。
てなわけで本日の主題。
リンク: SHUNGA 春画展.
気付けばもう二週間前になりますが、のシリーズなんですけども。前期の最終日となる11月1日、前々から気になっていた春画展に行ってきました。
電車を降りて、神田川沿いにそぞろ歩き。このへん確か桜のとき綺麗なんだよなあ。と思いつつ、有名な椿山荘のところまでやってきまして。その名も胸突坂なる、いかにもきつい坂を登れば、そこが永青文庫であります。
建物は大きくはないものの瀟洒な作り。建物そのものが展示品と言う趣で、たとえば展示品に関係のないところでも、書類棚の中などには細川家ゆかりの書類などが何気なく入っていたりして趣深く。
とはいえ、作りは綺麗ですが大きくはないわけで、人出の多さもあって、混雑はかなりのもの。帰り道ですけど、建物の外にまで行列が出来ておりました。
建物の中に入ると、まずは4階まで一気に上がり、そのあと展示を見ながら、徐々に建物を降りていく形になります。
春画展。大英博物館で開催され評判を得たものの、国内では開催を引き受ける場所がなく、なかなか開催にこぎつけられなかった経緯が、はじめの挨拶で語られています。公式サイトで寄付を引き受けているところからも、大々的に開催されている展示会との差を感じるところ。
春画について、複写や複製は普通に印刷物として流通し、その気になれば目にすることができるのに、原画を目にする機会を作ることができないことについて、縷々語られています。
古くは鎌倉時代に描かれた肉筆画から、江戸時代になって多いに隆盛した版画の世界。テーマに沿って行われた展示の中には、たとえば狩野派や、歌川国芳、葛飾北斎といった、何も知らないで行ったら、ここでこの人の名前を、と思うようなビッグネームがぞろぞろと。たぶん春画の中でも一番有名じゃないかと思う、タコが出て来るやつももちろん展示されておりました。正式には蛸と海女って言うんですねあれ。
高名な絵師の手によるものも多数現存しているように、春画の歴史は日本絵画の歴史の重要なパーツでもありました。
はじめは大名などの有力者の依頼で、肉筆の一品ものが作り出され、それらは縁起物として、輿入れの際の嫁入り道具としても用いられたとあります。本当かそれと思いますが、有力者の依頼で作られていたことは確かなようです。あるいはこれらは贈答品、もっとはっきり言えば賄賂として使われていたケースもあったのでしょう。
そして江戸時代、版画の時代となり大量生産された春画は、当局と言うかお上から規制を受けることになり、出版は地下化していきました。そして地下化したのがきっかけで、なんかいろいろタガが外れて、独自の進化に突っ走っていきました。
ご禁制の品って、じゃあ流通ルートはどうなっていたんだろう、と思っていたんですが、そこで貸本屋が重要な役割を果たしていました。ゴシップ誌や政治批判などと一緒に、春画の大部分は店舗に並ぶこともなく(貸本屋は、御用聞きみたいに本を抱えて得意先を回っていたということらしく)。人から人へと伝わり大きく地下繁栄していったわけです。
それにしてもまあ、裏付けになる資料もなにもあるわけじゃないですが。このへんひっくるめての事情が、識字率の向上に無関係だったとは考えにくいでしょう。識字率が高いからこそ地下出版界が成立し、地下出版を読みたいがために、識字率は維持されつづけたはずです。需要と供給が噛み合った状態。
リサイクル都市と言われている江戸が、実はレンタル都市でもあった、と言うことでもあり、これは思ってなかった方向でも楽しいもので。
精緻、技巧、クールジャパンと、半ば人為的にもてはやされている感のある日本の美術。
もちろん自国の文化に目を向けよう、それらの美しさを評価、あるいは再評価しよう、と言うのは意義のあることだと思います。しかしその所作にはどこか、今の時点で見たときの、美醜、善悪の観点がまとわりつく。過去のある時点で作られ、長年保存されてきたものを。いまこのときの価値観、道徳観で、これはいいから持ち上げる、これは駄目だから黙殺する、と言う態度で、果たしてそれでいいのか。「日本の美」なるものを、お行儀良く剪定してしまって。次の世代、次の次の世代に、あの世代は過去の遺産を、自分達の好みに合わないから、と言うだけの理由で黙殺しようとした、と思われてもいいものか。
ちょっと前、電柱を地下化しようと言うポスターが物議を醸しました。浮世絵に電柱を重ねあわせ、電柱の地下化を訴えたポスターです。
あの浮世絵を、果たして春画にできるかな。そんなことを考えながら会場を出て。坂道を嫌って、北へと抜けた次第です。
おまけ。
かなり散歩したあと、お昼は念願のチミチャンガでした。わーい。
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