マーシャンゴーホーム!:『オデッセイ』/『火星の人』(☆☆☆☆)
リンク: 映画『オデッセイ』オフィシャルサイト.
最高の資質と最良の決断があったとしても、誰も望まぬ結果が起きることもある。
マーク・ワトニーの身に起きたのは、まさにそのような出来事だった。宇宙飛行士であり、有人火星探査ミッションの一員だった彼は、火星にたったひとりで取り残されてしまったのだ。
地球ははるか遠い彼方。通信手段はなし、食料は有限。次に人類が火星を訪れるのは、最短でも4年後。あらゆるデータが指し示すのは、必然としての孤独な死。
しかしワトニーは恨まなかった。腐らなかった。己の状況にほろ苦い笑いをこぼしながら、自分の手札を数え、なにがゴールかを見定めて、絶望的な状況を少しずつ己の側へ引き寄せていく。その生き残るための苦闘は、やがて地球の人々の知るところとなっていく。
火星での孤独な戦い、地球での幾多の尽力。すべてはたったひとりの火星人を、彼の家へと帰すため。一人と万人の運命は交わるのか、火星と地球の苦闘は実るのか。これはいずれありえるかも知れない、宇宙の漂流者の物語。
てなわけで、映画『オデッセイ』、そして原作である『火星の人』。どちらも大変楽しませていtだきました!
火星の人は教えて貰って読んでみて、なんだこれ面白い! と思っていて、でもこれすごい面白いけど、映画にしにくいタイプの面白さだよなあ…… と思いつつ。公開初日の最終上映を見に行ったら、やはりこれはこれで面白い、と納得した次第。
最初に断っておくと、原作を読んで好きだった人は、映画見に行ってほぼほぼ裏切られないと思います。
で、先に映画を見て気に入ったら、原作はぜひ読むべきです。そして映画見てちょっと思ってたのと違うな、と思った向きにも、きっと原作のほうが肌に合う、と言うことはあるかと思います。
と言うのは、原作は結構長いのと、それに作品の大部分が主人公ワトニーの独白、と言うか日誌になっている形式で。そこにワトニーが現状をどう分析して、それにどう解決策を見いだすか、と言う、試行錯誤の課程が、ワトニー流のユーモアをふんだんに交えて書かれていて。その緻密さ、と言うか情報量の多さが魅力なのですが。なにしろそういうものは映像化しにくいもののはず。したとしても説明過多になってしまいそう。
映画を見に行くにあたり、そのへんが心配だったのですが、ここのところが脚色の妙でした。ワトニーが苦闘するエピソードを効率よく整理して、物語の中盤から現れるもう一方の舞台である、地球側の物語、ワトニーの生存を知り、彼を地球へ帰還させようとする人々の物語とのウェイトをうまく調整することで、伝わりやすく、バランスよく原作の物語を再配置している感があるのです。このあtりでも、難しい説明をうまく演技やビジュアルに落とし込んでいて、なるほどこれは達者だな、と納得しておりました。後半、登場人物のひとりが計画を説明するシーンなんかは、ほんとうまいアレンジだなあと。
そんなわけでまあ、映画を見て、ワトニーがやってることがなんかもやもやしてる、と思う方向の方は、原作を読むとそのあたりわりとすっきりするんじゃないかと思います。あとワトニーがひどい目に合う回数も段違いに多いので、そのへんもこう。
原作も映画もそうですが、この物語の、というか、この物語の登場人物の魅力は、失敗に対して誠実であることなのだと思います。
最高のアイデア、たゆまぬ努力。それでも失敗が起きることはある。ましてどうしてもの必要に迫られ、リスクを取った場合はなおさらでしょう。賭けに出れば、負けることもある。決して失敗してはならない、取り返しがつかないに近い局面でも、失敗は容赦無く起きる。作中では、幾度となく失敗が起きます。ワトニーも、それ以外の人々も。
しかし彼らは、起きてしまった失敗に対して。失敗に向き合い、失敗を理解し、失敗から学び、失敗と和解します。決して失敗を恐れないわけではない。失敗を恐れるからこそ、状況に真剣に取り組み、リスクを計算し、どこまでのリスクを取りえるかを飲み込んで、行動できる。
だらしがないもので、失敗からは目を背けたいものです、過去の失敗からも未来の失敗からも。失敗を恐れるな、と言う言葉の裏には、失敗をあえて見るな、失敗に目をつぶれ、と言う、ある種の失敗へのやましさがある。失敗そのものに向き合うことを嫌うからこそ、失敗の要因を誰か人間に求めて、失敗そのものから目を背けようとする。あるいは失敗を、あらがうことができない何かにまで棚上げしてしまう。
あるいはそれは、僕がなんか抱えている不満がそういうふうに感じさせたのでしょうけども。ともあれ、清々しい失敗への誠実さ。映画なり原作なり、そこに魅力を感じたと言う次第でした。
つまりなんだ、どっちも面白いですよ! ということでひとつ。足を運んで頂ければと思います。
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