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2016.05.19

目明かしミッシングリンク:八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤(☆☆☆)

大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 二百年もの時を隔てて、彼女には二つの顔がある。
 ひとつは謎めいた美貌と謎めいた智恵を持ち捕り物をたびたび手助けする不可思議な美女おゆう。そして彼女のもうひとつ姿は、平成の東京で独り暮らしを営む、元OLの関口優佳。時を超える不思議な「家」を相続した彼女は、二つの時代を行き来して暮らしていたのだ。

 息子を取り上げた産婆からの脅迫状に、我が子が他人ではないか、と言う疑念に囚われた大店の主。彼に相談を持ちかけられたおゆう。平成に住む協力者、分析マニアの宇田川の力を借りて、現代の科学力でいとも容易く真相に辿り着く。
 しかし本当に大変なのはこれからだ。知っているのは真実、科学的証拠に基づく事実。しかしどうしてその結論に辿り着いたのか、その結論を説明するどころか話すこともできないのだ。何時もながらの苦心に首をひねるおゆう。一方その頃、町奉行所では、同心・鵜飼を中心として秘密裏にある探索が進められていた。江戸のどこかで暮らしていると言う、とある藩の御落胤の噂。
 二つの事件は一つに交わり、おゆう、鵜飼らは二転三転する事実を追って江戸を奔走することになる。真実を捜し求める鵜飼たち。そして、すでに真実に辿り着いていながら、それを立証する術を持たないおゆう。平成と江戸とを飛び回り、おゆうは過去の今日のため、未来に伝わらぬ真実を捜しつづめる……。

 てなわけで、これは続刊。「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」の二巻になります。いかにも普通の時代小説っぽい表紙なのに、ヒロインが白手袋して指紋の検出してるわけですから、この表紙でだいたいの雰囲気は掴めるんじゃないかと。

 江戸と東京を行き来するおゆう=優佳と、おゆうが憎からず思う同心の鵜飼伝三郎。分析マニアの宇田川に、鵜飼の手下である源七親分と、レギュラーメンバーは前巻に同じ。そして物語の基本フォーマットと言うか、主人公の苦労する点もシリーズとして引き継いでいます。
 おゆうは(主に宇田川の力で)、江戸時代の証拠品をさまざまに科学的に鑑定することができます。指紋、微細な付着物、血液鑑定、毒物の検出などなど。これらをによって事件の真相、少なくとも真相の一部に、誰よりも早く辿り着くことができるのですが。いかんせん相手は江戸時代。せっかくの証拠も相手を説得させる証拠には役立ちません。そこでおゆうは、辿り着いた「真実」と、現状とのミッシングリンクをどう埋めるのか、そこに苦心し腐心することになります。まして今回の物語では、全体の捜査方針が、自分だけが知る「真実」から外れていかないよう、周囲をどうやって誘導するか、そういうことに頭を悩ませることになるのです。

 前巻の最後で繰り出したどんでん返しも静かに踏まえて、まだまだ続刊が続きそうなこのシリーズ。
 変化球でもかなり変化の効いた、でも最後はきっちりど真ん中に収まるこちらの作品。これからも楽しみにしたいと思っております。

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