目明かしミッシングリンク:八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤(☆☆☆)
息子を取り上げた産婆からの脅迫状に、我が子が他人ではないか、と言う疑念に囚われた大店の主。彼に相談を持ちかけられたおゆう。平成に住む協力者、分析マニアの宇田川の力を借りて、現代の科学力でいとも容易く真相に辿り着く。
しかし本当に大変なのはこれからだ。知っているのは真実、科学的証拠に基づく事実。しかしどうしてその結論に辿り着いたのか、その結論を説明するどころか話すこともできないのだ。何時もながらの苦心に首をひねるおゆう。一方その頃、町奉行所では、同心・鵜飼を中心として秘密裏にある探索が進められていた。江戸のどこかで暮らしていると言う、とある藩の御落胤の噂。
二つの事件は一つに交わり、おゆう、鵜飼らは二転三転する事実を追って江戸を奔走することになる。真実を捜し求める鵜飼たち。そして、すでに真実に辿り着いていながら、それを立証する術を持たないおゆう。平成と江戸とを飛び回り、おゆうは過去の今日のため、未来に伝わらぬ真実を捜しつづめる……。
てなわけで、これは続刊。「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」の二巻になります。いかにも普通の時代小説っぽい表紙なのに、ヒロインが白手袋して指紋の検出してるわけですから、この表紙でだいたいの雰囲気は掴めるんじゃないかと。
江戸と東京を行き来するおゆう=優佳と、おゆうが憎からず思う同心の鵜飼伝三郎。分析マニアの宇田川に、鵜飼の手下である源七親分と、レギュラーメンバーは前巻に同じ。そして物語の基本フォーマットと言うか、主人公の苦労する点もシリーズとして引き継いでいます。
おゆうは(主に宇田川の力で)、江戸時代の証拠品をさまざまに科学的に鑑定することができます。指紋、微細な付着物、血液鑑定、毒物の検出などなど。これらをによって事件の真相、少なくとも真相の一部に、誰よりも早く辿り着くことができるのですが。いかんせん相手は江戸時代。せっかくの証拠も相手を説得させる証拠には役立ちません。そこでおゆうは、辿り着いた「真実」と、現状とのミッシングリンクをどう埋めるのか、そこに苦心し腐心することになります。まして今回の物語では、全体の捜査方針が、自分だけが知る「真実」から外れていかないよう、周囲をどうやって誘導するか、そういうことに頭を悩ませることになるのです。
前巻の最後で繰り出したどんでん返しも静かに踏まえて、まだまだ続刊が続きそうなこのシリーズ。
変化球でもかなり変化の効いた、でも最後はきっちりど真ん中に収まるこちらの作品。これからも楽しみにしたいと思っております。
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