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2017.01.04

クラーナハ展、絵の中から見られるとき。(☆)

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 こういうときクリアファイルって買っちゃいますよね。
 お正月二日。そういえばここのところ美術館にも博物館にも行けていない、と思い立ち、ふとぶらりと出掛けてきたのは上野公園。
 どれも面白そうだったのですが、会期も間際で一番気になっていたクラーナハ展を見に行ってきました。

 ルカス・クラーナハ、と言う人のことは何も知らず、この展覧会を紹介しているテレビ番組、まあ日曜美術館とかぶらぶら美術博物館とかで初めて知ったのですが、歴史の教科書によく載っている、宗教改革のルターの肖像画。あれを描いたのが、このクラーナハと言う人とのこと。先に断っておきますが、以上および以下で嘘を書いてたら申し訳ないですが勘弁してください。不勉強を露わにするところまで含めて個人の感想です。

 でまあ。それでは肖像画家なのか、と言うと、確かにそれもそうなのですが。なんていうか、あまりにも色々な側面を持っていて、一言で言うのちょっと無理じゃないか、と言う人でもあります。
 ドイツの大貴族、ザクセン選帝侯のお抱え絵師として歴代三代に仕え、ルターの友人として多くの肖像画はもちろん、ルターが訳した聖書の挿絵を描き、多くの門人を擁して工房を切り回して絵画を大量に作成して流通。これを新教派はもちろん旧教派にも多く売りさばき、しかもそれがまごうことなき裸婦画。一応、ヴィーナスだったりニンフだったり神話に題材を取っている、と言うエクスキューズはあるものの、まあ、なんだ、裸婦画ですね。よく売れたって言いますけども、まあ、そりゃそうですよね。

 この展覧会、そのクラーナハの作品を、肖像画、版画など、テーマごとにまとめ、折々に、同時代の、または後世の、影響を受け、また与えた作品を並べて配置することで、歴史の前後を絡めながら、クラーナハの絵の世界を紹介しています。
 絵画のことには極めて暗い自分ではありますが、クラーナハの絵でショックを受けたのは視線でありました。絵の中の登場人物達、それもほとんどの場合は(展示の傾向もあるのでしょうが)女性達が、絵の中の出来事からつと目をそらし、「こちら側」に視線を向けてきます。
 侍女と醜態を演じるヘラクレスの姿から、つと画面のこちらに視線を向ける女主人であり、一糸まとわぬ(いやなんかまとってるらしいですけどほとんど無いに等しい)姿に、剣と天秤を持ち、やましいことなど一切ないとばかり、強い視線を向けてくる正義の女神。 
 見ている者がどう感じるか、どう狼狽えるのか。その姿まで全部ひっくるめて、見る者を絵の一部に取り込むような、そんな滑り込むようななにかが、どの絵にもある。クラーナハ、と言う人の人となりは今もって正直よくわからないままで、不勉強を恥じるとともに、もうちょっと詳しく教えてくれてもいいのにな、と思うところではあるのですが…… あ、音声ガイドを頼めば良かったのかひょっとして…… 工房で大量に絵画を作り出していたことといい、実業家としても成功したことといい。物事を枠組みとして、システムとして。一歩退いて相対化して見る人だったのかも知れないな、と、そんな風に思いながら、つと見ておりました。
 それだけに、会場後半にあった展示。クラーナハのオリジナルの絵画と同じ部屋、その壁一面に、時間を切って沢山の画家にその絵を模写してもらったと言う展示に、意味の圧力を感じて押し込まれました。
 現代、絵画が大量生産され、大量に消費されることへの批判の視線を持って作られた作品なのだとしたら、そのそもそものオリジナルが、大量生産の最大手というべきクラーナハその人の作品であることの、皮肉と言うよりも意味の一周回った感。
 そしてどんな意味を込めたとしても、そこに並んでいるのは、少しずつ似ていない大量の裸婦の絵である、と言う、目の前の壁一面。

 久々に美術館に行って、意味の圧力にすっかりやり込められてくるとともに。西洋美術史は言うに及ばず。宗教改革なり、旧約なり新約なり。不勉強で判っていないことが多いな、と、今更に無知を思い知らされた次第で。それがまあ、心楽しく、愉快なことでもありました。
 世の中は呆れるほど知らないことだらけで、知る事ができることがまだびっくりするほどある。こういう気持ちになれるのが、こういうところに行く楽しみなんだ、そうだった。と、久々に思い起こしつつ。
 正月から色々と勉強したいと思った、ひさびさの美術館に行ってきた、と言う話でありました。

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