「キリスト教」の前のストレッチ:はじめて読む聖書(☆)
そもそもがこちらの本、雑誌の連載をまとめたもの。季刊紙「考える人」の特集をまとめた本…… と聞くと、それだけでかなり身構えますが。文学、哲学、それにもちろん聖書学といった世界の人々それぞれの、聖書との取り組みをまとめた一冊となります。
一章ごとに別々の著者が、別々のテーマに向けて書いているのですが、どれひとつとっても「自分がキリスト教と思っているなにか」の色々な思い込みを、様々な方向から、いやそれ以外の見方もある、と、ぐりぐりと折り曲げていきます。
曰く、ユダヤ教では神様は現在留守にしている。曰く、偶像崇拝の禁止とは、すなわち神を人間に擬して語ることを、神の擬人化を禁じていたのではないか。曰く、神学と聖書学の、それぞれ聖書を研究しながらも、相容れることのない立場の違いについて。
この本の大部を占めるのは、聖書学者・田川建三のインタビュー記事。これがまた、なんていうかものすごく面白意。無神論者のクリスチャン、と言う、聞き返さずにはおれない氏の立場から、聖書学のダイナミックすぎる世界と、これまで辿ってきた、無責任な言い方ですが、面白過ぎる半生が、もうこの、何の本を読んでたか分からなくなる面白さ。
国際基督教大学での学生運動で矢表に立った(しかも学校側として)かと思えば、フランス語ができないのに、フランスの大学に教授になるために留学する。さらにはアフリカの大学に赴任して聖書学を講義したり。驚きの人生を、思想に結実させている。この一章のためだけでも、購入して損しない一冊だと思います。
そして巻末の一章はまるまる参考文献。これもまた、この本を読んだ後だと、どれも魅力的で。
最初の目的とはちょっとずれちゃったので、美術のための聖書再入門はそっちのリストでもう一度。そんな気分になった一冊でありました。
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