江戸城、末端、ファシリテーター。:江戸城御掃除之者!(☆☆☆)
てなわけで、色々なシリーズを同時進行で展開している平谷美樹の「江戸城御掃除之者」、連作二編を読み終えた次第でした。
今更言うまでもなく時代ものの小説なのですが、おかしみのある題材を見て判る通り、修羅剣客といった趣はほとんどなく。むしろその雰囲気は人情ものを通り越して、むしろいっそ大江戸サラリーマンものとでも言うべき雰囲気。
なにしろ主人公達、掃除之者は武士とは言うものの、おおむね想像の通り、かなり下の方の身分。当然俸禄も高くはないですし、仕事も世襲なので、出世の見込みがあるでもない。むしろ上司の出世のために、いろいろ難題を押しつけられる立場です。
とはいうものの、彼らは掃除にかけてはスペシャリストで、小左衛門の配下たちも、それぞれ秀でた芸を持ち、道具や技術の工夫に余念のない、言わば技術者集団。本文中にもある通り、技を持って仕える者です。技術者であり現場で働く彼らが、大切にされるでも報われるでもなく、むしろ上司の都合でいいようにいろいろこき使われる。小左衛門に至っては、父親の課業のせいで莫迦にされるせいで、いずれ跡を継いでほしい息子達にも軽く見られ、と、もうこのあたり、かなりの現代風味。
全六話の連作なのですが、第一話が、言わば大奥ゴミ御殿とでも言うべき話なのをはじめ、絶妙に流行り物をからめてきて不意打ちを食らいます。「地を掃う」には浜御殿が舞台の話があるのですが、途中まで読んで、時事ネター! とだいぶんひっくりかえりました。はい。
面白い、と言うよりも興味深いのは、小左衛門率いる山野組の面々が、チームと言うか、部署として、時々の課題に取り組む、と言う点。
なるほどお城の掃除ともなれば、時間も人手も必要となります。他部署と協業し、部署内でミーティングし、話し合いがスムーズに進むよう取り計らう。作中、レギュラーメンバーとして登場する小左衛門の配下達は、師弟コンビが三組の六人、小左衛門も入れて七人なのですが、小左衛門はおりおり、優秀なファシリテーターとしての一面を見せます。年齢層も違えば性格もそれぞれな配下達を集約させ、頭ごなしに否定するのではなく、適切な助言を送って、全員を山野組の一員として機能させているのです。
共感を覚えやすい境遇の主人公に、押しつけがましくではなく、よい世話役としての振る舞いを持たせている。これを読む人が、身の丈にあったヒーローの姿として、真似をして見習うことができるように。そんなふうな意図も、ひょっとしたらあるのかも知れません。
多くのシリーズを同時進行で刊行されていて、ご多忙だとは思いますが。こちらの作品も、のんびりと続刊を期待したい次第です。
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