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2018.07.09

星を渡るは九重の塔・天駆せよ法勝寺(☆☆☆)

天駆せよ法勝寺-Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作

 それは人類が宇宙までも版図を伸ばした未来の世界。その繁栄を支えるのは佛里学- 仏教理論を元に、高度に進化した科学技術体系。
 その現代佛理学の成果、恒星間宇宙船として建造された寺院・法勝寺は、いままさに七人の僧侶兼宇宙飛行士を乗せ、人々の熱狂を追い風に宇宙へと旅立とうとしていた。
 目標は39光年先の植民惑星・持双星、目的は百八十年に一度の大佛開帳。管長である厳真以下、佛理学僧の照海、尼僧エマニュエルら七人の僧侶が挑むのは、超光速航行を経ても、なお四十九日の日数を要する宇宙の旅。
 立ち塞がる困難に、さらなる苦難が降りかかる。未知の襲撃者。隠された事情。仄めかされる真の使命。39光年の旅の果て、僧侶達が辿り着く決着とは……。

 てなわけで、分量的にも短編だから、と言うのもあるのですが、一気に買って一気に読んでしまいました。仏教宇宙SF・天駆せよ法勝寺。

 なによりももう、単語と世界観の強さがぐいぐい強い。佛理学、仏教理論で構築された科学技術体型である佛理学の説明だけで、もう唸りっぱなしなのに。法勝寺発射までのシーケンス、不空羂索や金剛力士といった大道具の使い方に至るまで。きっちりと言うよりもぎっしりと言う感じの世界観にはもはやサンドバック状態なのですが。
 この物語、理論や概念やガジェットを並べたというわけではなく。お話として、ストーリーとして太くしっかりと成り立っているのが、とても嬉しいところ。

 じゃあそのストーリーは、ガジェットや世界観から切り離してもいいものなのか、と言えば、決してそういうわけではない。主要登場人物のほとんどすべてが僧侶という、だいぶ特殊な人物構成ではありますが。それぞれの出自、それぞれの屈託がきちんと噛み合っていて。佛理学のある世界、仏教科学文明の成り立った世界でしかできない物語が、そこにきちんと組まれている、と言うのが、すごく素敵なところであるなあ、と思うのです。

 いかにもキャッチーな出だしだけが紹介されているところは多いとは思うのですが、短編でもありますし。皆さんにぜひ一度、全部読んでみて貰いたいなと思う次第です。
 それにしても映像化されたら、いかにもとんでもなく映えそうで。読む人が増えて、あれこれ展開すると嬉しいな、と。難しいとは思いますが、この世界感の別の作品とかも読んでみたいもの、と。そう思う次第です。

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