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2019.01.17

奇譚を売る店(☆☆☆)

奇譚を売る店 (光文社文庫)

 また買ってしまった。
 お決まりのぼやきで、それらの物語ははじまる。主人公の悪癖は、行きつけの古本屋でついつい散財をしてしまうこと。
 たまたま目を留めて、あるいはやむにやまれぬ理由で、彼が手にする本、あるいは本のようなもの。かつて存在した脳外科病院の入院案内。実現しなかったカルト映画の企画書。ある一族にまつわる大河物語の上巻だけ。子供の頃に目にした少年探偵漫画……。
 なにげなく手にしたはずのそれらの物語を開いたときから。その欠落に、その謎に気付いたときから。彼は、そして彼の風景は歪み始める……。

 てなわけで。古本がテーマの短編集。全部で六編の短編から為っています。
 著者はミステリが主戦場の方だと思っていましたが、こちらは幻想小説と言うか、連作のホラーの趣き。詳しくは読んで頂いて…… と言う部分がありまして。どうしても言い方が慎重になるのですが。
 古本屋に入れ込み、物語に入れ込んでしまったがために。偶然出会った一冊の古本を、自分のために書かれたものと思い込んでいってしまうさまは。軽く撫でた程度とはいえ、学生時代に古本屋通いが好きだった身としては、いろいろ身に覚えのあるところがあります(古本屋の主人に対する主観などはもうなんかそうですねって感じで)。

 六編の中でも特に印象的なものは、不気味な情景描写が響く、冒頭の「帝都脳病院入院案内」、そして中盤の「時の劇場・前後編」でしょうか。
 ふとした理由で、前後編の長編小説・「時の劇場」の前編だけを手に入れてしまった主人公。その内容にすっかり入れ込んだ彼は、まだ見ぬ後編を渇望し執着し、それを手に入れるためにあらゆる手段を講じるようになっていく……。
 前編だけ手に入った、とか、1巻だけ入手できたけど、続刊があるかどうかもわからない、みたいな状況は、やはり覚えがあるもので。不可思議な状況と、身に覚えのある辛みがそれぞれ襲ってくる、不思議な感覚の一編でありました。

 読み始めたらぜひ途中で止めることなく、最後まで一気に読み通してほしいこちらの一冊。
 ご興味がありましたらぜひ。
 

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